INTERVIEW

024 「贅沢な骨」監督:行定勲&つぐみインタビュー

2007.06.29

ゆうばり国際ファンタステック映画祭2001レポート
招待作品「贅沢な骨」監督:行定勲&つぐみインタビュー

   

今年で12回目をむかえた北海道夕張市主催の「ゆうばり国際ファンタステック映画祭」。5日にもおよぶ期間中は街全体が映画一色に染まっていく。ハリウッドの最新作品から、通常観ることの難しい国内外のインディペンデントな作品と、幅広い映画を楽しめる貴重な映画祭である。期間中、上映会場は市内に複数配置され、その間を移動する際に見える雪一色となった坂や橋の多い夕張の風景も美しい。商店街には懐かしい映画の看板がディスプレイされている。国内外から審査員/ゲストとして招待される俳優、監督などの映画人も魅力のひとつであり、舞台挨拶を見ることができたり、時には路上やホテルのロビーなどでふと見かけることもある。映画ファンにはぜひ行ってみたい映画祭である。

    今回、ニュメロデューでは2/18日(日)上映された招待作品「贅沢な骨」のをピックアップして紹介。行定監督/サキコ役のつぐみにインタビューしてみた。舞台挨拶では行定監督は「『贅沢な骨』は、永瀬正俊さんとお酒じゃなくて、ふたりとも飲めないのでコーラを飲んでいる時に映画をつくろうよ、という話しになったんですよね」と本作ができたきっかけのエピソードを語ってくれた。
text by Shinichi Ishikawa(NUMERO DEUX)

NUMERO DEUX SPRCIAL 024
YUBARI INTERNATIONAL FANTASTIC FILM FESTIVAL 2001
INTERVIEW WITH "TORCH SONG" Isao Yukisada + Tugumi
取材日時:2001.02.18(sun) 15:00-15:30@ホテル・シューパロ
取材協力 ザナック/スローラーナー
NUMERO DEUX net magazine Copyright.

●「贅沢な骨」STORY
    コールガールのミヤコ(麻生久実子)は、家を飛び出したサキコ(つぐみ)といっしょに住んでいる。タイプの違うふたりだが、ささやかに楽しく暮している。「自分は感じないから」という理由でコールガールという仕事を続けるミヤコ。ある日新谷(永瀬正俊)という客に「感じて」しまったミヤコはサキコを巻き込んで3人の同居生活がはじまる。しかし、そこから3人の微妙な感情が交差し、むきだしになった時、なにかが明らかになり、なにかが壊れていった…。

「贅沢な骨」監督:行定勲&サキコ役:つぐみインタビュー
(■行定監督●つぐみ)

—–夕張の印象はどうですか?

    ■とにかく雪がきれいですよね。めちゃくちゃきれい。特に夜人通りがなくなった時。住んでいる人は幸せだと思いますよ。ホテルの前の橋のところとか、ライトアップされているみたいで、雪がそれによって光が反射しているから、さらにきれいです。こういうところに住んでもいいかな、と思ったりしました。

—–というと自然に住むのが好きですか?

    ■いや、都市でないとダメです(笑)。自然は好きなのですが、僕は都市の中で情報にかんじがらめになっていないと不安なんです。スケールがちいさいくて(笑)。状況がわかってないと嫌な訳だから。地下街とか日のあたらないところが好きです。落ち着くのです。時間がわからないから。ただ、(映画の)撮影では必ず日の光は欲しい。人工の照明だとどうしても映像がフラットになってしまうから。

—–つぐみさんは?

    ●私もまわりになにかがないとダメです。ないと不安になってしまいます。自然の中のあるものだけで遊んだりするのは苦手ですね

—–なぜ、映画監督になったのですか?

    ■子供のころは公務員になるものだと思っていました。事情があって僕は高校のころから一人暮らしだったのです。そこでいろいろな経験が積めて、自由で、いろいろな大人の方との出会いがあって、すごくプラスになったのです。勉強はそのすべき時期にしなかったので英語とかできないし、やっとけばよかったなとは思ってます。その時はただ好きでバンドをやっていて、そのバンドのプロモ・ヴィデオを作ろうと思って8ミリまわしたり、それが映像のきっかけですね。

—–そこから映画作りにいったのですか?

    いや、最初はただ表現するのは演劇がいいなと思っていました、映画もいいと思ったのですが、ピンとこなくて。演劇というのはステージでやればいいけど映画って編集とかあるし、スタッフもたくさんいるなぁ、と思って。だから演劇をやりたいなと思って東京に出てきたのです。

—– それがどういうきっかけで映画にシフトしたのですか?

    ■東京で演劇をいろいろ観たのです。唐十郎さんの舞台とか。そうしたらシナリオが凄くて、衝撃を受けましたね。その後、さらに間口が広く、自分なりの挑戦が出来るのは映画なのではないかと思うようになりました。


スチール撮影 北島元朗

—–ちよっと話しは戻りますが、なぜ表現することを仕事に選んだのですか?

■最初はバンドとかやってて、みんなの前でプレイすると下手なんですけどそれが気持ち良かったり、それにちよっとしたスター気分というのもありました、そのうち、先輩がいろいろ哲学的な難しい話をしているのを聞いて、それがカッコいいなぁ、と思って、それは何だろうと考えているうち文章を書くようになって。それは演劇のシナリオだったり、それが映画のシナリオになって、それを撮ってみた、という感じですね。だから、その時僕はやりたいのは映画かTVで、でもTVはスピードについていけなくて。理不尽なんです。立ち止まる余裕がなくて。やっちゃえーというところが。

—–映画はもっと考えることができるということですか?

■映画を作っているときはスタッフ全員が脚本にむかって考えていますから。僕のまわりはそうです。考えていなかったらついていけない。まわりで何をやっているかわからなかったら、落ちこぼれていくだけです。そういう意味で映画はおもしろいなぁと思います。みんなの力で映画はできる。僕は最初にキッカケをプロデューサーと一生懸命作っているだけだと思ってます。

—–監督として絶対権力者にはなりませんか?

■それは絶対ないですね。助監督もやっていたから、そういう人が凄く嫌なんです。絶対権力って自分のセンスをひけらかしている訳ですよね。相当恥ずかしいですよ。本当は。俺のいうこと聞いていればいいんだ、という感じは。まぁ、札束とかもって命令されるなら、それはいいですけど、僕は確信的にものがいえないからダメですね。「こう」、じゃなくて、「たぶんこう」、という感じです。それを具体化しているのは、役者だったり、スタッフなんですよね。特に役者はカメラの前で実際にやらなきゃならないから曖昧じゃダメなんです。だから、役者って大変だなぁ、と思います。

—–つぐみさんが女優になったきっかけは?

    ● 高校を卒業をしてからずっとOLをやっていたのですけど、20歳ぐらいのときにスカウトされて、それでこの仕事をはじめたのです。ですので、もともとなにか演技したかったとか、表現したいという意識もなくて、芸能界にも興味はありませんでした。でも、やっているうちに楽しさ、おもしさがわかってきました。それで抜けられなくなったという感じです。行定監督とやってみて、今まで仕事をした監督はわりと、「ハイこうしてね」「こう動いて、そう動いて」、という感じだったのですが行定監督は凄く役者さんを信用してくれていて、「やってみて」とまかしてくれました。凄くスタッフの方との信頼関係があって、それに戸惑いも最初はありましたが、得たものは大きかったと思います。

スチール撮影 北島元朗

—-本作はラストまで重苦しいほどの「切実さ」がありますね。

    ■「切実さ」というのは僕のなかにあって、それは僕はまだ32歳で若いですけど、もう6人ぐらい友達と死に別れているのです。実は病気になっていて、という場合は死というのは準備ができます。もちろん悲しい訳だけど、早く立ち直ることもできます。でも、突然いなくなる場合は、その人について気づいていなかったところがあったり、和解ができた時に死んでいなくなったりしているのです。今回はそういう部分を中心に描いています。僕は映画では人と人を撮ろうと思っているので。

—-出演者3人の関係性のみが徹底的に描かれて、ラストをむかえますね。

    今回は予算が少なくてみんなが協力して作るなかで、背景が描くことができませんでした。背景は例えば、戦争とか、空港の建設予定地だとか、いくらでも作れるし、必要だと思うのです。僕も背景を描くのは大好きなんです。たとえば「ひまわり」では背景はお葬式ですよね。でも、本作ではそれを省きましょうというのが前提にあって、今回はそれにおもしろさがあったと思います。人が不在になるというのはどういうことか、登場人物の3人はそれぞれが孤独で、その中に愛情があって、それは純粋な気持ちなのだけど、それが悪意に変わるとか、3人の距離感のみを描こうと思って本作ができました。

—-つぐみさんは本作で「サキコ」を演じた感想は?

    ●わたしは女優になって4年目ですが、今までは激しい性格の役が多かったです。でも、今回の役は正反対でした。それは自分のなかではチャレンジでした。最初シナリオを読ませてもらった時からひきこまれるように読めたので、この役はやりたいな、と思いました

—–オフのすごし方を教えてください。

    ■子供と遊んでいますね。どこかには連れてはいかないので(笑)家で機嫌をとってます。あと、オフのときは次に撮りたい映画のことを考えています。それが一番楽しい。プロデューサーといつもの喫茶店で雑談も兼ねて次の作品の話しをしたりしています。あとは仕事しているときとオフの時って全然変わらないですね。夕張に来ても同じです。

    ● 寝ています(笑)。あと、お友達と遊んだりしてます。最近、ボーリングにハマっているのです。

—— 今後の予定を教えてください?

    ■今後は映画をたくさん撮ろうかなと思っています。よく僕の映画は作家性のある作品といわれるのですが、作家性というのは20本ぐらい撮ってから出るものだと思うのです。だから、今までと全然違うものもやりたいし、似たようティストものもやるでしょう。今、原作つきの作品のシナリオ化を進めているところで、その一本が「ロックンロールミシン」(鈴木清剛)です。オリジナルも考えています。次作は原作のあるものにいかに自分の作家性を介在させるか、というのに挑戦したいですね、それがうまくみえると面白いかな、と思っています。あと職業は映画監督なので、それにふさわしい社会性を身につけたいですね(笑)。

●今年の秋に出演作品「HASH!」(監督 橋口亮輔)が公開される予定です。

    —–ハル・ハートリーの作品「フラート」の制作に参加なさっていますがハートリー監督について教えてください。

    ■ハル・ハートリーは、現場では絶対主義者ですね。こうじゃないとダメ、という感じです。凄いと思ったのは時間を守ることと、予算を守ることに執着しているとことですね。プロの監督はこうでないとダメなんだなぁ、と思ったし、そういう部分がしっかりあるからスタッフがみんなついてくるのだと思います。ただ自分勝手にやっている監督なら誰もついてこないですからね。彼は良い意味で妥協することを知っている。なにか問題があった時には、「では、これはB案でいこう」ということがキチンと決断できる人です。一緒に仕事をして勉強になりました。

after hours
取材を終えて

    「贅沢な骨」の上映が終了した直後にインタビューをおこなった。行定監督は気さくにインタビュー前、まわりのスタッフを笑わせていた。監督というのは自然な感じに「いい場の雰囲気」を作れるものだな、と感心をした。時間的にやや駆け足のインタビューになってしまったが、ひとつひとつの質問にていねいに答えていただいた。つぐみさんもインタビューに対してとても真剣に答えてもらって僕も少し緊張した。
    inteviewer SHINICHI ISHIKAWA(NUMERO DEUX)

● REVIEW 「贅沢な骨」

  本音をぶつけなから生きていく…それはもう自分の中では実現不能という意味で「夢」でしかない。自分では心の中はめったにダイレクトに表に出すことはなく、遠回りな言葉をいくつも重ねて、やっとの思いで「何か」を伝える。それが社会でのコミニュケーションだと納得することもあるし、あまりの面倒臭さにウンザリすることもある。「好き」と「ごめん」。この一言がなぜいえないのか。いっしょに住んでいて、とても親しいハズなのになぜなのか。それらの言葉はいつも心のなかにあるし、咽のあたりまではくるのに声にはならない。少しTVの音が高かかったり、いうべき相手が少しだけ早くドアの外に出て行ってしまっただけで、タイミングを逃してしまう。自分では少しも伝えていないくせに、相手の無理解にイライラしてしまう。そうしているうちに相手との距離感が遠くなっていったり、ふと相手と別れてしまうこともある…わかりあえないまま。そんな微妙で、イライラするほど遠回りで、そしてとても切実な人間関係を「贅沢な骨」では3人の男女を通して描かれている。ラストシーンから、エンド・クレジットにつながるわずかな瞬間に作品の世界は、間違い無く僕自身が生きている現実につながった。そして、その切実さを引き受けて僕は生きなければならない。切実さという部分で、僕の心の奥底に激しく触れた作品。
text by Shinichi Ishikawa(NUMERO DEUX)

ゆうばり国際ファンタステック映画祭
http://www.nifty.ne.jp/fanta/yubari/sakuhin2001/intro1.htm
「贅沢な骨」 TORCH SONG
2000年/日本語〔英語字幕〕/107分/スローラーナー配給
監督:行定勲
出演:麻生久美子、つぐみ、永瀬正敏

    今夏テアトル新宿(03-3352-1846)でのレイトショー公開から全国順次公開予定

「贅沢な骨」公式サイト
http://www.movie.co.jp/zeitaku/
配給会社スローラーナーサイト
http://www.slowlearner.co.jp/

   
   


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