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NEWS No.17005-5「澁木智宏個展『線分』」

2017.01.16

澁木智宏

 

僕は時々、山や海に行く。本当にたまに。インドアがちな自分の気分転換ため。名が知られてる観光地というより、あまり人のいない、観光地でも混まない時期がいい。僕は自然さえ感じられればいいから。行くなら早朝。森を歩く、山を登る、海岸を眺める。そして去る時、特に印象深い場所なら、記念になにかを拾う。それは「石」が多い。その理由は、持ち帰りやすいし。石は多分、その地にずっとあったもの、すべてを見ていたもの、記憶(記録)が実体化したものだと思うから僕は記憶を持ち帰る。手に持って。

澁木智宏(Shibuki Tomohiro)  1986年・北海道小樽市生まれ。武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科卒業。テキスタイルデザイナー、ウールを素材にしたアーティスト。国内外で個展及びグループ展を開催。本展示ではウール素材による「石」作品を展示している。僕は水石(川や山等の自然石を室内で鑑賞する文化的行為)を表現しているのに一番興味を持った。

澁木智宏のウールによる石作品には「ただただ静かな場所にあった石」「とあるスーパーの店員を転ばせた石」等、タイトルがある。つまり、石作品には実体だけではなく、物語性(記憶)も作家に手のよって加えられている。それは、フィクションだと思うけど、絶対にそうかといえばわからない。そう考えると興味深く楽しい。

作品の石のフォルムは実に精巧で緻密。これはぜひ、みなさんに現物を見てたしかめて欲しい。本当の石に見える。顔がくっつくほどの距離で見ると石の表面が「違う」ことがわかる。さて、ではこの作品は何を意味するのだろうか?

僕はこう考える。アートは「新しさ」と「歴史」を感じさせるという「2つ」が必要だと思う。それがそろったものが優れた作品だと考える。ただ、過激に新しいだけではダメなんだ。では、クラシックな表現だけでは少なくても、現代美術とはいえない。澁木智宏の本展示にある作品には、この僕が考えるアートを成立させる「2つ」がある。ウールという素材を使って石をつくるという「新しさ」。それを水石等に見立てるコンセプトには「歴史」に対する想いが感じられる。それよって、魅力ある表現となっている。ここにはたしかなアートの表現がある。

伝統的な「水石」は石の中に自然という大きな世界を見いだす。それをウールの石によって、物語を見いだすというのは、新しく、そして水石という伝統文化(歴史)に沿っている。そして、作品の持つ緻密な美しさは、僕を魅了する。ぜひ会場で全体像を眺め、素材がわかるほど顔を近づけて見てほしい。すると物語(ストーリー)が浮かんでくるだろう。

ishikawa
Text by
アート・メディアライター  石 川 伸 一 (NUMERO DEUX)

澁木智宏個展「線分」
期 間:2017年1月5日(木)〜 同年1月31日(火)11:00~19:00(月・第三火休廊)
会 場:クラークギャラリー+SHIFT(南3東2丁目6 MUSEUM 2階)

 


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