NUMERO DEUX REVIEW


「ザ・フライ」「裸のランチ」「クラッシュ」などの数々のセンセーショナルかつしっかりとした美学のある作品を送りだすカナダの映画作家、デヴィッド・クローネンバーグ。近年は原作つきものが多かったが、新作「eXistenZ」(イグジステンズ)はひさびさの自身によるオリジナル脚本。近未来の究極のヴァーチャルゲームもめぐるサスペンス。4/29(土)よりロードショーしてます。

eXistenZ / Film by David Cromemberg



パラレルでかまわない実感

「生きている実感」というのを感じたことがあるだろうか?僕はあまりない、と思う。もし、「毎日バリバリ感じているよ」なんて人がいたら2時間ぐらいお茶でもつき合ってもらって、お話をうかがいたい。でも、「生きている実感を感じている人から話しを聞いて、自分も生きている実感を感じた」というのはなんか間抜けな話しではないか、と勝手に屈折解釈。僕はすぐに否定にまわるだろう。そんな訳で、 僕が今、生きているのは「死に対する恐怖」のみに支えられてだけかもしれない。それほど不真面目に日々生活している訳ではなくて、それなりに後悔と失敗を繰り返して脇の下に汗をかいたりするが、現実感は限り無く薄いのである。薄くていいんだ。厚くしてもしかたがない。無理にテンションをあげるのは下品だと思っている。

クローネンバーグの新作では、「人生を変える」ほどのヴァーチャルな体験ができる究極のゲームマシンが登場する。脊髄にプラグを差し込みゲームを直接ダウンロードする仕組み。マシン本体はバイオテクノロジーの産物で機械というより生物。映画の始まりは最新ゲーム「エグゼステンズ」の発表会からはじまる。女性ゲームデザイナーも交えて、テストプレイが始まった瞬間、テロリストが乱入、デザイナーは殺されそうになる。主人公は彼女を連れ出しなんとか難をのがれる、味方も敵もわからない状態で、逃走劇がはじまる…こんなストーリー。

究極のヴァーチャル・ゲームという題材は、決して新しいものではない。どちかかというと陳腐感じがするぐらいだ。主人公が初めてヴァーチャルな空間にジャック・インしたとき、「現実みたいだ」と感動するシーンとかは、結構観ていて恥ずかしくなって、忠実なファンである僕も「クローネーンバーグ、ヤバイいかな」と思ったりした。ところが、しばらくするとこういう違和感もなくなり、作品のなかにはいりこむことができた。落ちついてくると、いろいろなシーンで、センスが光ってくる。例えば、未来的な設定なのに極力サイバーパンク的ティストを押さえているのがウマい。街より野外のシーンが多いのも新鮮に感じることができた。この辺がアメリカ的ないかにもゲーム感覚あふれるサスペンス調ではなく、ところどころにヨーロッパ的な、「隙」があるのがイイ感じになっいる。SFハイテクもの映画って、おもしろいんだけど、そうしても子供ぽくなってしまうのが不満だった僕には気に入ったポイント。そういえば、子供ってまったくでてないね。ある意味では初期作品ぽいティストがある本作は、クローネンバーグ初体験としても悪くはないかも。

text by Shincihi Ishikawa(NUMERO DEUX)










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