NUMERO DEUX SPECIAL 031




< NeW FREINDSとても気になる新しい友達

「チェブラーシカ」の監督のロマン・カチャーノフはもう亡くなっている。残念ながら、僕は本作以外の作品を観たことがないのだが、きっと他にも素晴らしい作品を作っていると思う。本作はチェブラーシカ、わにのゲーナ、おばあさんのシャパクリャクらの活躍を通して「人生」のさまざまな出来事や意味を表現しているではないだろうか。それはきっと監督自身の人生経験が反映されていると思う。良質の作品から感じるスクリーンと自分が住む現実の世界がつながっている感覚があった。もちろん、スチールなどのとおり「チェブラーシカ」は可愛いくて楽しい、パペット・アニメーションである。でも同時にとても真面目に語ることもできる「深みのある作品」であることをわかって欲しい。ひとりで本作を配給することを思いたった吉田久美子さんにインタビューしてみた。
text by Shinichi Ishikawa(NUMERO DEUX)


NUMERO DEUX SPRCIAL 031
"NeW FREINDS" Interview With Kumiko Yoshida
取材日時:2001.9.29(土) 16:00-16:30
取材協力 :PETIT GRAND PUBLISHING, INC.
Interview by SHINICHI ISHIKAWA(NUMERO DEUX)
Art Direction & Design:NUMERO DEUX
NUMERO DEUX Copyright.




INTERVIEW WITH Kumiko Yoshida
●吉田久美子(1969-)
映画館勤務を経て今年の春よりフリーで映画配給の仕事をおこなっている。
「チェブラーシカ」は初めての配給作品となる。




----- 「チェブラーシカ」が今回、上映されるまでにいきさつ

実現するまで3年ぐらいかかった企画でした。
私はもともと、施設の都合によりレイトショーのみの映画館に勤務していたのです。でもレイトだけの映画館ですから、配給会社さんからなかなか新しい作品をまわしてもらえなくて、監督特集、女優特集、という企画たてて、女優さんのトークをいれたイベントを打って、やっと満席にしていたのです。普通の上映のときはお客さんは少なくて。でも、なぜかアニメーションのときはお客さんがはいったのです。広告も打てなかったので、チラシをまくだけだったのに。

そこで、ちいさいとき私が観たロシアのアニメーションで「雪の女王」という作品を上映しようと思って、ロシア映画社さんに行きました。そこで「雪の女王」は60分しかないので、他の作品もいろいろみせてもらって、その中に「チェブラーシカ」があったのです。それを試写してみたらとても評判が良くて、他作品といっしょに上映してみたら、「チェブラーシカ」だけを目当てに来る人もいて、これは当たるなぁ、と思って上映したいなぁ、と思って、まず権利関係を調べたのです。そうしたら、なかなかわからなくて、見つけたと思ったら権利を持っている会社が倒産してしまったり…。

結局アメリカに権利があることがわかって、ロスまで契約にいきました。ここでやっと権利関係がクリアーになって上映できるな、と思っていたら映画館が資金繰りがつかなくて閉館することになって。それで自分でやることを決心したのです。必要なお金は調達不可能というほど高額という訳でもなかったのです。そこで、映画館に勤務していたころから上映企画についてブレーンをしてもらっていたプチグラさんから、それぐらいの資金ならということで出資してもらえました。もうひとつクロックワークスという映画会社さんが、「チェブラーシカ」の写真をお見せしたところ、「ヴィデオをうちでやらせて欲しい」といっていただいて、資金も先に出してもらえました。さらに足りない分を自分のお金で資金を用意したのです。

----- 「チェブラシーシカ」とは?

もともと、ヨーロッパなどでもよくあるらしいのですけど、映画館で本篇の前に流す短編というのがあって、「チェブラーシカ」もそういった作品のひとつだったようです。そこから人気が出てTVで放映されて、ロシアでは誰でも知っている人気キャラクターになりました。作品は全部で4本しかないので、繰り返し上映されていたみたいですね。監督のロマン・カチャーノフはロシアでは巨匠の監督さんです。私は「チェブラーシカ」の他に「手袋」という5分ほどのセリフのない作品を観たことことありますが、これも素晴らしい作品でした。

----- 「チェブラーシカ」の魅力

「チェブラーシカ」は本当に古いし、キレイではないのですけど、今の最新技術を使ったアニメーションでは絶対出せない味があるのです。ただ、「カワイイ」だけではなくて、貧乏臭かったり、悲しかったりするのが凄く良いのです。例えば、3話の終わりに流れる音楽も哀愁があって、日本人好みだと思います。 すごく細かく作っていて、例えば、チェブラーシカ以外のキャラクターが話しているときも、それに対してチェブラーシカが反応して動いています。キャクターのお洋服も可愛いいデザインだし、出てくるお皿一枚にしても絵が描いてあったりして、仕事が細かいです。私は100回以上は観ていますが、飽きないし、劇場で観てまた新しい発見があります。観ていただいたお客さんもヴィデオやDVDで繰り返し観たい、毎日観たい!という方が多いですね。

----- 各話で特に印象に残っているシーンを教えてください。

第1話ではオレンジの箱から出てくるシーン、それに第2話のプレゼントの箱を運んでくるところとか、とても可愛くて印象に残っています…私は、もともとそんなにキャラクター好きという訳ではないのです。携帯のストラップとかにつけたりしませんし。でも、「チェブラーシカ」は本当にいいなーと思いました。第3話のセリフで、「僕がゲーナの荷物を持つから、ゲーナが僕を持ってよ」というところですね。あと、ラストに流れる音楽です。

-----字幕について?

字幕は、プロの字幕屋さんではなくて、「チェブラーシカ」のウェブサイトを昔から立ち上げていた方にお願いしたのです。その人はチェブが好きすぎて、ロシア人と結婚した女性の方なんですよ。初めてのことばかりで大変でした。つけていただいた訳はもしかしたら、プロの方から見ればいろいろあるかもしれませんが、愛情のある素晴らしい訳だと思っています。その他、今回の仕事を手伝ってくれたスタッフは、もちろんお金をお支払いしていますが、本当にこの作品を愛していてボランティア的にやっていただいたな、思っています。




---- 上映劇場について考えたことはありますか?

今回の配給に関してはシネコンのような大規模なところでやれる、というお話もありましたが、私は比較的小さめな単館で上映したほうが、「チェブラーシカ」らしいなぁ、と思ってとりあえず最初はそんな感じで選んでみました。映画館は(まだ知名度のない)古いロシアのアニメーションを上映するのはリスキーなことだと思うので感謝しています。 映画館では何度も観ていただいている方が多くて年齢層も高めで、20代女性の方が多いみたいですが、東京ではお子様も観にきているみたいです。週末は満席ですね。カップル、男性の方も結構こられています。

------ 原作の絵本もあるそうですね。

原作も凄くいい本です。チェブラーシカはちよっと生意気なんですけど。キリンさんとか、おサルさんとか、映画にも登場したキャラクターの悲しい過去のエピソードもあって、興味深いです。ただ、可愛いだけのキャラクターではなくて、ストーリーがあって、ロシアの歴史も感じさせるのです。「チェブラーシカ」の版権元の方にどうしてこんなにもの悲しいのですか?と尋ねてみたら「ロシアは悲しい歴史の繰り返しだから、どうしてもそうなる」とお聞きしたのが印象に残っています。

----- これから観る方に「チェブラーシカ」のPRをしてください。

日本で認知されているものとは違った、今まで観たことのないアニメーションだと思います。世界にはまだまだ、いろいろな作品があります。とりあえず観て欲しいですね。私は普段は本当に可愛いいもの好きでもないのですが、そんな私でも「可愛いい」といわざるをえないのですから!

----- 最後に吉田さんの今後の予定を教えてください。

「チェブラーシカ」以降は、もう目をつけている作品もあるので、資金がまわっていけば、次の配給作品もやっていきたいです。基本的に私はアニメーションをやっていこうと思っています。なぜなら、世界中の誰が観てもわかるものが多いし、セリフがない、買い付けやすい、観やすいし、古いものでも凄く良いものがあるので、権利関係の問題をしっかり解決できれば、私のように資金や、ノウハウのない人間でも、いろいろ配給ができるのです。


more Information

チェブラーシカ」について、より詳しい情報は以下のサイトをチエックしてみましょう。

オフィシャルサイト
http://www.cheb.tv/

*チェブについての情報や、グッズ(!)を入手することができます。

http://www.infosnow.ne.jp/~kino/
*10月20日(土)より上映予定。時間帯など詳しいところをチエックしよう。



after hours
取材を終えて

本作の主人公、チェブラーシカはアフリカから来た正体不明の動物という設定なのだけど、その「性格」も不明、といっておこう。もちろんイイ子にはちがいないのだが、作品を何回観ても、その性格はつかみにくくて、そのへんのちよっとした「謎」の部分も本作の魅力になっている。出張中のところ快く取材に応じていただいた吉田さんに感謝します。
Shinichi Ishikawa(NUEMRO DEUX)







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