spacial contents 003 "FILM" MAY.1999
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「アベックモンマリ」

監督 大谷 健太郎    プロデューサー 武藤 起一

「avec mon mari」(アベックモンマリ)
1998年/カラー/スタンダート/95分

監督・脚本/大谷健太郎 
プロデューサー/武藤起一 
アソシエイト・プロデユーサー/竹平時夫 撮影/鈴木一博  照明/安部力  録音/小林徹哉 助監督/露木栄司 美術・衣装/貝賀香織 ヘアメイク/山口今日子 プロデューサー補/貝山亜木 監督助手/黒川雅矢/露木恵美子/磯部美香/後藤奈岐 撮影助手/岡宮裕 録音助手/横井有紀 スチール/大谷育緒  記録/蜷川晶 照明助手/鈴木健太郎/坪井妙子 制作助手/澤岳司ヘアメイクアシスタント/臼木志穂 音楽/Reinaldo Pineda

キャスト

小林宏史 /板谷由夏 /辻香緒里 /井上 豪/ 水森まどか/ 黒川雅矢 /矢内耕平/ 大谷健太郎/ 寺島まゆみ(友情出演)
大杉 漣
  http://www.ncws.co.jp


良い映画あります。それは、「アベックモンマリ」

自分の日常をふと振り替えると、冴えない毎日だったりする。ところが、大抵の映画の世界では、これが現実なら心臓に悪そうなコトが次から次へと起きたりする。このギャップについて、僕達はなんとか無視を決めこんできた。それはきっと、自分が冴えない毎日を、無意識に認めたくないからかもしれない…

「アベックモンマリ」。ひとりの情けない夫に対する妻の浮気疑惑からうまれるパラレルな四角関係。「仲直り」のみの95分のストーリー。でも、ここには僕達が本当に必要としている、または、一生の間に十分に経験しうるドラマがあるのである。

監督の大谷健太郎さんとプロデューサーの武藤起一さんにインタビューしてみました。

(text & interview Shinichi Ishikawa / Numero deux) QZJ12432@nifty.ne.jp

監 督 大谷 健太郎 プロデューサー 武藤 起一  
札幌では5/22までシアターキノにて上映中です。    

「アベックモンマリ」
監督・脚本 大谷 健太郎 Kentaro Otani

1965年京都生/多摩美術大学芸術学科卒業
本作は、初めての劇場用長編作品

「とにかく限られた予算の中で、それでも見応えのある映画を作るには、丁寧に人間を掘り下げていくしかないという考え方が先ずあった」




---現在、「映画」という表現に向かっている理由(きっかけ)は何なのでしょうか?

 元々私は映画ファンでもマニアでもない。ただ、ものを作って自分を表現することは、子供の頃から興味があって、そんな仕事が出来たらどんなに素晴らしいだろうと、淡い夢を抱いていた。その為の媒体や選択肢は様々にあっただろうが、そんな中、大学時代、ひょんなことから映画のサークルに入り、「自主制作の8ミリ映画」と出会って、いつしかそれに没頭していったのが原点だと言える。当時全くの初心者で未熟だった私ですら、何の障害もなくカメラを回し、編集し、とりあえず作品らしきものが出来て、手軽に「作る喜び」を味わえたのが新鮮だった。決して小難しくない(何でもアリの)敷居の低さというのが「8ミリ映画」の魅力で、私はすごく自然に、楽しく、映画作りに取り組んでいくことが出来た。その後の道程は、決して生易しいものではなかったけど、今では映画に対し一番の魅力を感じるのは、「映画はこうあるべきだ」という不自由さに捕らわれなくていいこと。とにかく「面白いか面白くないか」の一点に突き進んでいける快さが、映画にはある。

----- 本作のシナリオにはとても長い時間がかけられていますが、自分のスタイルとして、脚本はもっとも重要なものなのでしょうか? これからも脚本は御自身で書いていくのでしょうか?

 シナリオに長い時間をかけた、のではなく、長い時間がかかってしまったのが本当のところ。でもその中で、自分の映画の見せ方というか、勝負どころというのが見えたような気がします。そのセリフの多さ、邦画では珍しい会話劇というスタイルを貫いたことで、逆にシンプルにストレートに大谷の映画というのを認識し、評価して貰えることが出来たと思う。 
 そういう意味で、シナリオが、先ず自分の資本であると思っているし、とりあえず次回作のシナリオ執筆が、今の私の仕事なので、そこでも独自のカラーをより明確にする作業が最も重要だと言える。

-----. 本作は、部屋のシーンが大部分をしめますが、これを意図的なものなのでしょうか?野外ロケや移動撮影などについては興味はありますか?

 最初の質問で答えた通り、「映画はこうあるべきだ」という考え方で創作している訳ではないので、あくまで方法論として、室内シーンの多い作品になってしまった。野外ロケや、移動撮影も必要であれば使っていたと思う。
 とにかく限られた予算の中で、それでも見応えのある映画を作るには、丁寧に人間を掘り下げていくしかないという考え方が先ずあった。今回の作品で、あえて閉塞的な室内空間に登場人物を押し込めたのは、ストーリーやドラマ性よりも先ず、人物同士の関係性が変転していく面白さを明確に浮かび上がらせ、その一点に観客の興味を集中させようとしたから。全てはその意図によるもの。

 ----- .好きな監督、作品などをいくつか教えてください?

 小津安二郎の「秋日和」と、エリック・ロメールの「恋の秋」。とりあえず同じ「秋」つながりで(一方は邦題だが…)、どちらも中高年の男女の恋愛を扱っている。自分としては、この二作品にかなり共通している切り口、心憎い配慮を見つけて、密かに喜んでいる。中高年恋愛、いつか扱ってみたいテーマになった。

 ----- 本作は、はじめてプロのスタッフとの仕事だったそうですが、感想を教えてください。

 本作は、完全なプロ集団では無かった。映画での仕事は初めてというスタッフやキャストもいたし、素人のボランティアスタッフの力も大きかった。今回の現場は、面白い映画を作りたいという志のもとに集まったプロ・アマ集団が、全体としていかに結束し、機能するかが問題だった。本作では、それがかなり上手くいったのではないかと思う。

 ----- 今後の予定を教えてください?

 現在、次回作の脚本を執筆中。初めて女性を主人公にした作品に取り組んでいる。実は何カ月も前から、将棋の女流プロ棋士の世界を取材している。ずばり次回作は、女流棋士の姉妹をヒロインにした映画になる予定だ。いきなり何だと思われるかもしれないが、涙と汗のスポ根的なストーリーにするつもりは無い。一見すると普通のOL、女子大生の様な、イマドキの感覚で日常を送っている姉妹だが、その職業は勝負の世界であるが故に…というギャップの面白さを描くつもり。
 同じ小学生の頃に父親から将棋を教えられ、同じ師匠に付き、同じ環境の中で女流棋士になった姉妹だが、やはり恋愛観や人生観それぞれ「個」の女性として微妙に違っていたりする。だからぶつかったり、すれ違ったり、でもちゃんと理解し合っていたり…。
 そんな姉妹の、女としての「微妙な違い」の中に、今を生きている女の子の悩みや不安や希望の、本質の端っこでも映し撮ることが出来たら、と思っている。

 ----- 最後に、作品のなかの4人の登場人物のなかで一番思い入れのある人物と、その理由を教えてください?

 思い入れは、作品そのものになる、というのが正直なところ。四人の登場人物の関係性に心血を注いだつもりだから。強いて言えば、美都子の兄役を演じた役者(確か、オレ?)に心残りはある。

「アベックモンマリ」 
プロデューサー 武藤 起一 Kichi Muto

1957年茨城県生/1997年より全く新しい映画人の養成機関「ニューシネマワークショップ」を主宰している。

「今や、日本の映画の質の部分を支えているのはインディペンデント映画です」





----- 肩書きにある「映像環境プロデューサー」とはどのような役割を持っているのでしょうか?

 一言で言えば、“映像の環境をプロデュースする人”ということですが、そんな偉そうなものではなく、特に映像の中でも映画、その環境が少しでもよくなるようにいろいろなことを仕掛けていこうという趣旨のもとに自分で考えた肩書です。だから、役割的にはなんでもやります。(多分、監督だけはやらないと思いますが)

----- プロデューサーとして、「大谷監督を世に出したい」と思った理由を教えてください?

 私は85年から91年までPFFのディレクターをやっていて、「こいつは才能があるな」と思った作家にたくさん出会いました。塚本晋也や、橋口亮輔や、矢口史靖などなど。大谷健太郎もその一人です。彼らには監督として世に出てほしいと思いました。その後、前述の3人は自力で、または誰かのプロデュースによって世に出ることができましたが、大谷くんは何故か僕に企画をもってきました。これで劇場用映画を撮りたいと。それが「アベックモンマリ」の原型だったのです。それで、「こりゃあ俺がやるしかないか」というわけでプロデュースをやることになったわけです。


----- インディペンデントな活動について、「音楽」の場合、作品のディストリビュートを含めて、だいぶ環境が整ってきているようですが、「映画」をとりまく環境はどうでしょうか?

 インディペンデント映画というのは、10年前にくらべてものすごく市民権を得ていると思います。今や、日本の映画の質の部分を支えているのはインディペンデント映画です。そして、その世界には誰でも入っていくことができるようになっています。そんな意味で、映画にはすごくチャンスがあると言えます。しかし、音楽などに比べて、まだまだもうからないのは事実です。だから、映画を仕事にしていくのは誰にでも可能なのですが、経済的にも成立するまでには、かなりの努力と辛抱と戦略が必要です。それまで頑張れる人だけが映画の未来を築けるのです。


----- 御自身で主催している「ニューシネマワークショップ」について教えてください?

 これから映画の世界で生きたい人のための養成機関として97年に東京の早稲田でスタートしたのがニューシネマワークショップです。「トータル・プロデュース」というのをキイワードに、他の映画学校とはかなり異なるコンセプトで、これからの映画人を養成しています。

 
詳細を知りたい方は、(tel 03-5285-7455)

http://www.ncws.co.jp  

-----「アベック モン マリ」のヴィデオ・リリースの予定はありますか?

 あります。まだどこから出るかははっきり言えませんが、今年の末から来年の春までの間に、レンタル屋さんに並ぶと思います。楽しみにしていてください。

----- 今後の予定を教えてください?

 今年の内にもう1本、配給プロデュースします。それは、3年程前に公開された「カナカナ」という映画の監督・大嶋拓の新作で「火星のわが家」です。これもいい作品です。東京では今年の秋ごろに公開し、その後全国をまわると思います。ぜひ見てください。
 それと、大谷監督の新作もまたプロデュースする予定です。今、監督は脚本にかかっていて、いつクランクインできるかはわかりませんが、来年の春ぐらいにできればいいなと思っています。今度は「アベモン」以上にスケールも予算も大きくなるはずですので、お楽しみに。


----- 最後に、4人の登場人物のなかで一番思い入れのある人物と、その理由を教えてください?

 私は、4人の中では一番中崎に年齢が近いので中崎かと言うと、違うのです。脚本を監督と進めていく時点で私が一番気を使っていたのは、実はマユだったのです。いかにマユのキャラクターがこの世代(20代前半)の女の子がもつリアリティを獲得し、なおかつ魅力的に見えるかがかなり重要な課題でした。(タモツと美都子はあまり苦労しませんでした)それが、辻香緒里という女優を得て、かなりうまく表現できたかなと思います。だからキャラクター的に最も思い入れがあるのはマユというわけです。

 

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