NUMERO DEUX REVIEW



"ブリスター"(日本)
(監督 須賀大観)

誰もが共有しうるリアリティ

まず、自分自身がとてもこの映画を愛しているいうことが、凄くシンプルな理由から割り出すことができる。それは観た後のエンドクレジットが流れている間に「もう一回みたいな」と感じた作品だからだ。それはまた再び観たときもそう感じることは予想できる確信だ。僕が非常に高名な映画評論家なら、この理由だけで万人を納得させて、映画館を満杯にできる。でも、僕はそうではない、だからこの素晴らしいフィルムについて、もっと語る必要がある。

 ファーストシーンはなぜか未来戦争後SFのようなシーンで始まって少しびっくりする。砂漠に巧妙にウエザリングがかけられてハンディ・ウェポンで武装したキャラクター。スターウォーズと、マッドマックス2以降をコピーしながらイタリアで作られてような雰囲気。こういうシーンを日本映画が撮ると、なんとも違和感があるのだが、本作の場合は違う!、兵器についての軽妙な会話、小道具、どれをみても隙がなく作りこまれている。でも、なんでこんなシーンが必要なんだ?という部分は最後に最高にクリアーになるのだが、まだ語るのは早いかもしれないが、この作品が単なる「マニア実態映画」に終わらせないパーツの一部分(あくまで一部分!)になっている。

 そして、主人公の疾走シーンとなる。店に飛び込み、目当てのアイテムを探すために「目が泳ぐ」ところが、凄くリアルで、それだけで楽しい気分になる。主人公はクラブのような場所で働いていて、そのシーンが時系列の逆転を含みながら各脇役たちのプロフィールも紹介されていくのもうまい。このお店のシーンは、一種「どよーん」としたマニアが集まる場所というか、間違っても普通のOL、サラリーマン、または同じクラブ系でもブラコン系ソウルとか、パラパラ系が来る可能性のない場所である雰囲気が伝わっていて好きになる。主人公は、同棲していて、その彼女がカメラマン見習いというのは、十分にリアル。部屋もそういうアーティステックな雰囲気を持ちつつ、生活感があるのもいい。この彼女とのケンカのやりとりは、マニアの恋愛関係ではつきものの問題であり、結果的に彼女は、主人公を許しているのは、心暖まる話だなと感じた、特にラスト近くて、写真を認められた彼女が、おみやげに、主人公は欲しがっていたフィギュアを持っていったところなど、かなり泣きそうになる。結局、男は女に甘えて生きるのかもしれない。

「ブリスター!」の魅力は脇役の魅力でもある。まず、SFマニアであるテラダ。スタートレックなどを語りながら、一種「大人」として登場するのだが、結局タガははずれいたのもわかる。「宇宙船」を読み、最後に「でも、俺の脚本が悪かった」と誰のせいにもせず、去っていくのはカッコよかった。主人公のライバル(?)の「なんでもコレクター」のキム。そのコレクションはうさん臭いものばっかりで、その説明を聞いているだけで笑ってしまう。極端すぎるキャラクターは思い入れできないものだが、映画でしか存在できない存在として、本作の映画らしさが出ているのではないだろうか。メカマニアのハサモト。ネイル・アーティストのイルマとのエピソードはマニア心理が「わかる」人間なら涙なしでは観れない、というよりマジ泣きそう、そして、激怒してしまいそうだった。「彼女は自分を理解してくれたんだ!」と思い、彼女のポラロイドをならべながら、デザインに励むシーンなどは、本当に心にくる。でも、それをその後の彼女の豹変ぶりは、「それなら、最初っから優しい声をかけるなよ!」とこの映画を愛するものはみんな思うだろう。それなら、最初から「わかんなーい」といってくれたほうが最高に楽なのに。

それに対して、主人公の彼女、マミは良い。彼女だって、彼の「フィギュアを愛する心」の本質的な部分は理解はできてないだろう。でも、そんな彼を理解はできなくても「認めて」愛している。これは素晴らしいです。本当に。ヘルバンカーのアメコミ調のディテールは本当に精密。マニアでも、こういうの本当にがあるんだぜ!、といえば信じる可能性は高いのではないだろうか。

その他、好きなシーンは無数にあるが、とりあえずまとめみよう。この作品の良さは、まず「ライブ感」が強いこと、観ている側も一緒にヘルバンカーを探している気分になる。そして、各登場人物がからむ複数のエピソードが共感できる出来だということ。あと、編集のキレの良さと、スピード感(ドライブ感)。これは主人公のちよっとした動作でも、凝っている部分があってびっくり。それと、先にも書きましたが、この作品が、単なる「マニア・ドキュメント」に終わらない、ヘルバンカーと未来のシーンを繋ぐ「糸」がしっかりあること、このへんが「これは楽しい映画なんだぜ!」という主張がある。いろんな人に観てもらいたい映画だ。


レビューの感想はShincihi Ishikawa(NUMERO DEUX)までおよせください。










|REVIEW TOP| |CONTENTS|