NUMERO DEUX NEWS 15028
札幌のアートなニュース。
「ライブ」というメディア
それを意識して選択する時代。
冬なので、長い前置き。
寒くなった。冬は家にいたい。家のリビングでソファに座りiPadで音楽を楽しむ。ネットの世界から部屋の中へ心地よい音楽がながれる…内の音楽。では、外の音楽といえば…それはライブ。
「ライブ」とは、ご存知のとおりお客さんの目の前で表現をすること。そして、ライブはシンプルで、もっとも昔からある「メディア」のひとつだと思う。そのジャンルはいろいろだけど、一番なじみのあるのが音楽だろう。20年前くらい前だと自分の音楽を発表したいと考えるなら「ライブ」を主催するか人の企画等に参加する、またはCDを作って、手売りやお店で委託販売する、そんな手段しかなかった(今回は本テキストでは発表の手段としてのCDについては、ここから省いて「ライブ」と「ネット配信」について書いていきたい思う。CDのリリースがライブと同じくらい手間がかかるのは同様だと考える)。
ライブの主催はなかなか大変です。ライブハウス等の場所探しから、交渉、集客、金銭的負担、フライヤー配りまでしないといけない。他人のライブ企画に参加するのは、はるかに楽だけど希望すれば必ず参加できるとは限らないし、自分でコントロールできない部分も多い、なんらかの負担もしないといないこともある。僕は音楽家ではないけど、ライブ企画をおこうことがある。正直、手続やコミュニケーションの行動はなかなか面倒。まぁ、そこに制作のおもしろさがあるよね、とカッコつけたいけど、実際は自分の主催イベントが無事終わるまで緊張のしっぱなしの記憶しかない。小心なので。
「ライブ」というメディアは手強い。紙やウェブメディアと違って、すべてがリアルタイムに進行していくから。立ち止まって考える時間がない。反面、「生」のおもしろさがあるのはたしか。
今はどうだろう。音楽ができたら、ネットで無料で利用できる動画共有サービス(=ネットメディア)を使えば、暖かい家の居間にいながら自分の音楽を簡単に世界中に発信できる。面倒な手続きやコミュケーションも不要。おもにライブという手段しかなかった時代の世代なら信じられないくらい素晴らしい方法に思える。対して、生まれたころからインターネットの使える世代にとっては、それほど驚きもないだろう。世代によって生まれるこの「温度差」。それはしかたがない。まぁ、その「温度差」だって、あと時代がひとまわりすれば自然消滅するに違いない。すると、ライブ「しか」なかった時代というは急速に忘れられてしまう。
長い前置きになった。僕はなにがいいたいのだろう。そう、昔は「ライブ」をするは必然だった。それしか方法がないのだから。でも、今はネットがあるので、そうでなくなった。ライブをせず、ネットで発表してもいい。それが一番楽だし、物理的には世界中に発信される。ライブでもいい、両方でもいい。そんな時代になった。
今、ライブとは表現にとって選択的になった。そう、昔はライブをやるのに強い理由はいらなかった。でも、現在は、はるかに便利でやりやすいネットでの発表という手段が登場した。そのため、ライブを「やる理由」が必要な時代に変化していると思う。そう、今音楽家はライブをするか、しないかという選択権が与えられたのだ。僕はこのテキストでは、ライジングのようなメジャーで大規模なライブイベント、いわゆるフェスの話をしたい訳ではなくて、インデイペンデントな音楽家にとって「ライブ」をやること、やらないことを真剣に考えないといけない時代になっていると思うのだ。
Vertical Horizontal
「Vertical Horizontal」とは、札幌にて2014年3月に発足したプロジェクト。その内容は、コンピューターや、そのほかデバイスを駆使したアーティステックな表現を、音源等メディア発信および、ライブパフォーマンスをおこなうことである。2014年に4月に市内の現代美術ギャラリーCAI02にて、アーティスト6組によるビジュアルとミュージックのライブイベント「Vertical Horizontal #01」を開催。同年9月には、コンピレーションアルバム『VHVA01』をフリーダウンロードにてリリースし、続いて12月には市内のクリエイティブ・ストアMUSEUMにてイン・ストア・ライブ「VHSHOW IN MUSEUM STORE」を企画。そして、今回ライブ・イベントが1年ぶりに初回ライブと同じ会場にて開催された。会場では音楽家と映像作家が並ぶブースがあり、左右にPA、正面と左壁面にプロジェクターによって映像が投射されるセットなっている。
僕の知っている限りでは、今札幌でこうしたテクノロジーを駆使した、音楽&映像のライブイベントでシリーズになっているのは、ほとんどないと思う。今回のライブを観ながらドリンクを飲んで、ライブっていいなと思った。VHSHOW 02の余計な装飾も理由づけもない、ライブという形式は本当にいいし、貴重だと思う。物理的な場所と時間を使って生でおこなわれるパフォーマンス。ライブという場でしか感じられない「何か」というのは必ずあると思う。それを僕が具体的に説明しにくいけど、ライブにはネットの画面やスピーカーから出てくる情報とは明らかに異質だと思うのだ。差があるのではなく質が違うのだ。ライブは、送り手だけではなく受け手にも意識をさせる。
ライブは受け手=客はその日のその時間に、その場所に居なければならない。お金を払い、その場のルールに従わないといけない。場所、時間、温度、空気、人、そして表現。ここでいう人、はアーティストでけではなく、お客さんから関係スタッフを含む「その場」にいた人も含む。ライブとは、その場限りの出来事であり、その場にいた記憶に残りやすい。年に一度、ライブを開催してきているVertical Horizontalには、ライブにしか表現できない「なにかの魅力」のためにライブを続けるのだと思う。ライブに意識して対峙していくVertical Horizontalの活動には、ぜひ注目してほしい。本企画にはライブのおもしろさ、という実にシンプルで奥が深いテーマの追求があると思うのだ。
会場のCAI02は札幌大通駅直結にある現代美術のギャラリー。独立した2つのギャラリーのほかにカウンター形式のカフェも併設されている。平日23時まで開いているのはありがたい。
Text by メディア・プランナー 石 川 伸 一 (NUMERO DEUX)
Vertical Horizontal サウンド&ヴィジュアルショーケース
「VHSHOW 02」
日時: 2015年11月28日(土)
会場: CAI02 札幌市中央区大通西5 昭和ビルB2
入場料: 一般 1000円 / 学生 500円 (共に1ドリンク代込み)
出演:
Junichi Oguro / Yamaoka / Unii / anasazi technology / beatimage / Kei Komachiya + Daisuke Funato / Motohiro Sunouchi / gekitetz / Wajima
ウェブサイト:http://vertical-horizontal.com