NUMERO DEUX NEWS 16004
札幌のアートなニュース。
見えているもの、見えていないもの、
その境界は実はかなり重なっているのではないか。
影は子供のころは不思議に思えた。影をよく見た。でも、大人の現在、意識することがほとんどない。意識するのは仕事机の照明位置を考える時ぐらい。右ききの場合、照明は左にあったほうが影が邪魔にならず仕事がしやすい。僕はその時、影を避ける。そして忘れる。
見えているものは、自分にとってどこまで見えているのだろうか。僕は、時々、日常に見えないものを見たいと思っている。だから、アートやデザインが好きだ。でも、それは正確には、実はふだん見ているものを、あらためて見たいと思っているだけかもしれない。見える、見えないというはとても主観的なこと。目に入っていても、心まで到達しないと、感じることができない。地下鉄ホームにある駅名のサインボードは、自分の行動を決めるために認識はするが、それは心までは到達しない。ただ、そのサインボードのデザインが素晴らしくいいと、心まで届くことがある。アートの表現とは、見たことのないものを、つくりだす、というより「見えているものを、心に届くように別のかたちで提示する」ということではないだろうか。そんなことを時々考える。
クワクボリョウタ(アーティスト/情報科学芸術大学院大学 [IAMAS] 准教授/多摩美術大学情報デザイン学科非常勤講師。)現代美術を学んだ後、98年に明和電機との共作「ビットマン」を制作し、エレクトロニクスを使用した作品制作活動を開始。デジタルとアナログ、人間と機械、情報の送り手と受け手など、さまざまな境界線上で生じる事象をクローズアップする作品によって、「デバイス・アート」とも呼ばれる独自のスタイルを生み出した。2010年発表のインスタレーション「10番目の感傷(点・線・面)」以降は、観る人自身が内面で体験を紡ぎ出すような作品に着手している。その他の代表作に「ビデオバルブ」、「PLX」や、Sony CSLに開発参加した「ブロックジャム」、「ニコダマ」などがある。ソロ活動の傍ら、生活と実験のアートユニット、パーフェクトロンの一員としても活動している。(クワクボリョウタ ウェブサイトのprofileより)
今回の展示作品は「LOST」というシリーズの作品。遮光カーテンをくぐって展示会場に入る。会場内を照明は落とされていて、床面に模型電車が走るシンプルなジオラマが作れている。模型電車には小型のLEDライトがとりつけられていて、レールの周辺に配置されている日常的な「もの」の影が壁面に大きく映し出される。模型電車はゆっくりと動いていて、壁面に投影される影も大きさや、形をかえながら動いていく、そして消えていき、次は別の影がつづく。シンプルでわかりやすい構成。でも、そこで繰り広げられる光景は、みたことがあって、みたことのない心に届く美しい風景がひろがる。光と影。その美しさ。本作を影の作品、とまとめてしまうのは、まとめすぎだと思う。作品自体の評価を狭めてしまうことだと思う。僕は本作は、ふだん目にしているのに、見えないものを、見えるようにしてくれる作品ではないだろうか。
会場は、大通公園西端にある札幌市資料館2階にある「SIAFプロジェクトルーム」。ここは1階にある「SIAFラウンジ」ともに「SIAFラボ」が運営する施設。SIAFとは、札幌市が主催する札幌国際芸術祭(Sapporo International Art Festival、略称:SIAFサイアフ)の略称。3年に1度、札幌市で開催する国際的なアートフェスティバル。2014年に第一回が開催。次回は2017年の開催を予定。「SIAFラボ」は、札幌らしい芸術祭を実現していくために、市民ひとりひとりにとっての札幌を考え、発見、発信をしていき、札幌に主体的、自発的な札幌独自の芸術文化活動が育てるきっかけ作りを目的tろしている。そのため、具体的には誰でも参加できる、ラウンジの運営、フォーラムやイベント、展示企画等を開催している。
Text by メディア・プランナー 石 川 伸 一 (NUMERO DEUX)
SIAFラボ アーティストセレクション クワクボリョウタ《LOST#13》
会期:2015年12月11日(金)~2016年1月11日(月・祝)/10:00~18:00
休館日:月曜日(1月11日を除く)/年末年始(12月29日~1月3日)
会場:札幌市資料館(大通西13丁目)2階SIAFプロジェクトルーム
入場無料