NUMERO DEUX NEWS 16012
札幌のアートなニュース。
ていねいな光景、つくられた自然な空間。
雪は心に入り込む。すべては雪のせいかもしれない。
僕は札幌で生まれ、育った。そうだと「雪」はこの地のある時期の日常。正直、かなり意識しないと、それに心から感動を得るのは難しい。それでも、心動く「機会」は、毎年、2〜3回はある。僕の場合、それは眠る夜しんしんと雪が降り続けた夜明け、仕事に行く早朝を体験した時。マンションを出ると一面の雪。駐車場の車は雪によってケーキのようになっている。細い電線にも雪が巧妙に積み重なり、明かりの消えたクリスマスツリーのようだ。建物も地面もどこまでも白く、見上げると薄暗くも青白い空とつながっているよう。そんなとき僕はヘッドフォンをつける。雪景色の中でiPhoneで聴くアンビエント・テクノは僕の中で最高のプライベート・ライブ。すべてを覆い尽くす「白」。ホワイトアウト。
シーズン・ラオは1987年マカオ生まれの芸術家、写真家、グラフィックデザイナー。現在札幌を拠点に活動中。マカオ理工学院 Arts in Design 学士マルチメディア科卒業。ルイヴィトン地域限定のグッズデザインなど数々のプロジェクトに担当しアジアからヨーロッパにまで活動の範囲を伸ばしている。札幌ではデザインの仕事をしながら、北海道にある炭坑の町へ行くなど、芸術家として、人と自然のあり方、禅的な哲学の模索をコンセプトに、手漉き紙に雪の景色写真の作品を制作している。今回、雪のある景色をテーマに展示をおこなった。
彼も「雪」に魅せられたアーティストだと思う。それは、もう本展示のタイトルからして明白。そして、ここまでストレートに「雪」について、語りかける作品も珍しい。これは、きっと、雪のない場所で生まれ育ったための感性というのがあると思う。正直、そこは僕はとても羨ましい。きっと、僕よりずっと「雪について感じられる」に違いないから。そして、彼のその捉え方はとても繊細で、優しげだと僕は感じる。それは、今回の展示の空間のつくり方をみればわかる。雪の光景の処理の仕方、プリントする手漉き紙、木製の額装。実に注意深く空間が構成されている。一般的な作品展示というよりインスタレーションに近いものを感じた。テグスをつかい棒状の木材をつかって吊るした作品には、展示というより「雪のある空間の再現性」だと僕は思う。
会場のto ov cafe(ト・オン・カフェ)は、地下鉄中島公園駅から歩いて3分程度の場所にあるギャラリーカフェ。コンパクトな空間ながら、独立したギャラリー空間のある、しっかりとしたアートスペースとなっている。お茶を飲みながら、アートを楽しめる魅力のある空間だ。また、アートについてのレクチャーイベントも開催している。
Text by 石 川 伸 一 (NUMERO DEUX)
「シーズン・ラオ写真展『La Neige―雪』」
会期 : 2016年2月2日(火)~2016年2月14日(日)
会場:to ov cafe(ト・オン・カフェ(南9条西3)