NUMERO DEUX NEWS 16008
札幌のアートなニュース。
美術館。アートのおもしろさ、興味深さがローカル(札幌)、グローバルの視点で
学び、楽しめる3つの企画
映画も美術もインターネットで観ることができる。スマートフォンかタブレットがあれば、家で寝ながら観ることもできる。それもいいけど、僕は時々、映画館や美術館にも行く。それはなぜなのだろうか?個人的な好みなのか、リアルな空間に行く一般的な魅力があるのか、僕にはわからない。ただ、僕の個人の好みとしては、ネットではなくリアルな空間で観る意味はあると思っている。少なくてもアートと呼ばれる分野には「見せ方」というのが存在する限り、ネットの利便性だけではリアルの意味を消滅させることはできない。北海道近代美術館といえば、地下鉄なら西18丁目で降りれば徒歩5分。大通公園の一番西端からでも、それぐらいに時間で行ける良い場所にある美術館。僕は足を運ぶ。それに意味があると思うから。
そこで、3つの企画展示が同時開催され、同一料金510円で観ることができる。これは実に素晴らしい。内容を以下簡単に説明していこうかと思う。
ひとつめ「『さとぽろ』とその時代 詩・版画・都市のモダニズム」は、かつて札幌に存在した北大・黒百合会の学生が大正時代に創刊した『さとぽろ』(1925~1929)。その内容は、画、詩、演劇、音楽、建築等の当時の北海道のアーティストの作品を集めた文芸雑誌である。その雑誌自体の展示や紹介されていたアーティストの作品展示がおこなわれているこの展示では、当時の札幌のアートの状況がわかるし、メディアとしての『さとぽろ』自体も大変興味深い。また、本雑誌と交流のあった前衛雑誌『マヴォ』も紹介されており、当時のアートシーンの若さと熱気が伝わる展示だと思う。インターネットどころか、印刷自体も難しかった時代。今つくるのも大変そうなアートのメディアが作られていたこと、その高度な内容に驚く。本当、作家活動やメディアづくりに一番必要なのは、いつの時代も「やる気」なんだなと思いました。がんばります。
ふたつめ、「アートのことば Modern Art and Words」 。アートを鑑賞するために大変役立つ企画展示。アーティストによる印象的な言葉と、その意味を解説。そして、関係している作品が展示されている。その言葉も興味をそそらせせるものになっており、これを知るとアートを観るのがより楽しくなる。アートって、主観的に楽しむのはもちろん良いのだけど、アートの知識があると、もっと楽しくなる。 そんなことが学べる企画ですし、展示されている作品もおもしろい。楽しいアートの勉強になります。アートは学ぶこともとっても大事。
最後は「冬季名品選―ライリー《アレスト1》他」。本美術館のコレクションの紹介。北海道の作家や、美術の歴史的な代表作をジャンルもさまざまに紹介。ふたつめの「アートのことば Modern Art and Words」で学んだ視点で、観てみるとおもしろい。そして、アートの奥の深さが感じられる展示になっていると思った。いろんな作品を観るのも美術鑑賞には大事なこと。
3つの展示を楽しんだ後は、2階の休憩スペースでお茶でも飲もう。心地良い疲労感。ドトールの自動販売機でココアを飲む。美術館で過ごす休日。美術館にはインターネットにはない、実在する「空間」がある。その空間の楽しさが作品を体験することを引き立ててくれる。外の空気と美術館。それもアートを構成する要素なのかもしれない。
Text by アート・メディアライター 石 川 伸 一 (NUMERO DEUX)
【近美コレクション】『さとぽろ』とその時代 詩・版画・都市のモダニズム
【近美コレクション】アートのことば(同時開催)
【近美コレクション】冬季名品選―ライリー《アレスト1》他(同時開催)
会期:2015.12.19(土)-2016.3.21(月)
会場:北海道立近代美術館(中央区北1条西17丁目)