札幌ビエンナーレ・プレ招聘アーティストインタビュー
トーチカ(Tochka)
ナガタタケシ&モンノカヅエ
札幌発の国際美術展を開催する試み札幌ビエンナーレ・プレ。それがいよいよ2011年4月2日(土)から同月10日(日)まで北海道立近代美術館にて開催される。道外招聘アーティストの中には早めに札幌入りして制作を行っているアーティストもいる。
ナガタタケシ&モンノカヅエのユニットトーチカ(Tochka)もそのひとつ。3月27日(日)夜より来札して制作を進めている。その合間におこなわれた歓迎会の席にてトーチカの表現と今回の展示についてお話を聞いてみた。
2人はソフトな印象でわかりやすくトーチカの成り立ちや表現について話してくれた。話を通してアートのおもしろさやアートによるコミニュケーションのチカラ伝えたい、という想いを2人より感じた。ぜひ彼らの展示を観に行って欲しい。
Interview With ナガタタケシ&モンノカヅエ
●"PiKA PiKA"という表現とそれの生い立ち
——札幌には2日ほど前に来られたそうですね。週末の札幌ビエンナーレ・プレの開催のための制作をしている最中でしょうか?
ナガタタケシ:(以下N)札幌に来てからずっと制作をしてますね。今回は展示とオープニングパーティでのパフォーマンスとワークショップもあるのでやることは多いです。それぞれ準備は違うものなので。
——早速本題ですが「PiKA PiKA」についての説明とその成り立ちを教えていただけますか?
僕たちのアート活動は、いろいろな人が参加してもらうワークショップを通して作品を作るスタイルをとっています。作品ごとに何十人、何百人という人がかかわります。「PiKA PiKA」は光をつかってみんなで落書きをやっていく表現です。これは言葉や文化や宗教を越えてコミニュケーションをとることが可能で実際、外国でもおこなっています。
モンノカヅエ:(以下M)「PiKA PiKA」は国に関係なくみんな楽しんでもらっています。この国だから、という反応はないような気がします。私たちは難しい英語はしゃべれませんが、それでも「PiKA PiKA」を通してコミニュケーションがとれるのです。
N:はじめたキッカケは神戸で子供も大人も対象にしたワークショップをやることになったときですね。それまでは子供むけにしかやっていなくて。
M:夏休みの企画だよね。2005年ですね。
N:夜にもやるものだったので、光で絵を描けないかなと思いました。僕は大学で実験映像を専攻していたので技法は知っていました。それを使ってみんなで共有できるアート表現ができないかな、と考えたのが夜にペンライトで空中に絵を描く表現「PiKA PiKA」です。実際やってみると、思ったより身体を動かすし、子供は原理がわからなくても、光をふりまわすのを楽しんだり、同時に大人も楽しめるのがわかった。そして、できた映像もおもしろかった。これは続けていこうと思って現在にいたります。
作品のつくりかたはいろいろありますが、ワークショップの場合は3〜4人でチームを作って、まず4コママンガを描きましょう、と教えて、紙にどんな話をつくりたいのかイメージを膨らませてもらいます。そして絵コンテを描いて、実際に描く分担を決めていきます。10秒間の中で一枚の作品を完成させるので、その点も打ち合せしていきます。でも、まったく即興でやることもあります。
M:クリエイティヴ系の仕事をしている人と一緒にやる時は、みんな好きにやっていいよ〜という感じです。
N:今お話したとおりワークショップから始まったプロジェクトですが、そのもとのようなことがあります。それは僕達が東京でテレビ向けのアニメーションやミュージックビデオを作る映像制作の仕事をしていて、その日々の中でだんだんストレスを感じていました。
M:納期があって、それまでに仕事をする。それは当たり前なのですけど「描きたい!」じゃなくて「納期があるからやらなきゃ」という感じになっていて…
N:この業界で働いている人はもともと、絵を描くこととかが好きでそれを仕事にしたのに、どこかで疲弊しているのを感じていました。クリエイティブの本当のおもしろさを思い出そうよ、ということで東京の同じような仕事をしている人や海外の知り合いにも声をかけてバーベキューを企画して飲んで食べて、そして「PiKA PiKA」のようなことをやって交流することをはじめたのです。
M:最初の1年はよくやってましたね。
N:交流のためのツールとして使って、そこでできたものをYouTubeで流したり。
M:ホント、お金がなかったから生まれた企画なんです(笑)。東京だと飲みに行ったら一回5〜6千円かかりますよね。飲んで働いて、飲んで働いてという感じになって。循環が悪いというか。それならコンビニでなんか買って、夜に公園とかで遊べることがないかな、というところから始まって。クリエイティブ系の人は夜元気ですし(笑)。楽しさが伝わる表現っていいなぁと思います。
N:根本にあるのが、アートや、クリエイティブのレクリエーションやリハビリテーションという発送です。創る楽しさや、子供心を引き戻していく場を作るというのがぼくらの使命だと思っいてます。
M:「ラクガキ」におもしろさを感じていて「PiKA PiKA」にはそういった表現の提案というのもあります。あと外でできるのもポイント。みんな外で遊ぼうよ!という想いもあります。
●今回の展示について
ーーー次に今回の展示について教えていただけますか?
M:今回の札幌での展示は今までお話したこととはまったく違う感じになります。
N:3月12日の東北地方太平洋沖地震の震災を受けた方々のために僕達はプロジェクト「きみでいて ぶじでいて × Safe And Sound Project」に取り組みました。それを今回の展示にしたいと思ってます。内容を説明するとユニクロのCMなどを手がける第一線で活躍する映像作家、CM監督である関根光才さんとのコラボレーション企画です。はじまりは関根さんのお知り合いであるサウンドクリエイターの菅野よう子さんから、関根さんにこの震災ために菅野さんが作った曲でなにか一緒にできないかという話があって、関根さんから僕達に話があって、関根さんと僕達で世界に被災地にむけたメッセージを募集して、それを発表するプロジェクトをやろうと。被災の日から一週間以内に。
僕達がなにか作品を作るのではなくて「PiKA PiKA」のやりかたをみなさんにお知らせして、それで被災地にむけたメッセージを入れた作品を作ってもらう。関根さんは写真を募集しました。それを素材にして最終的には菅野さんの音楽をつけたミュージックビデオすることにしました。ウェブサイトで募集して、被災地にむけてのメッセージを2日間だけ英語と日本語で募集しました。すると700枚くらいのメッセージが集まりました。それを今回、展示する予定なんです。
M:自分たちは募集や編集しただけで、作品自体は世界中の方々が描いてくれたメッセージなんです。こういった活動は阪神淡路大震災の時からおこなっていて、被災を受けた人にどうすればみんなの気持ちが癒えるのかなと考えました。義援金の寄付はもちろん大切なもだけど、お金やモノだけでは足りない気がしたのです。被災を受けた方々の気持ちを照らすような作品を集めて紹介したいと思っていました。
ーーー「気持」というのは大切ですね。最後にひとことおねがいできますか。
今回は制作して一週間で帰る予定なのですが、本来、僕らはひとつの場所に半年や1年をかけて作品を作るスタイルなんです。昨年は2年かけて愛知で作品を作りました。その前は1年近く金沢で。近々は九州に行く予定もあります。そういった制作場所のひとつとして、札幌、北海道で将来やりたいですね。今回の展示でここに来たのがその足がかりになればと思っています。
★トーチカのさまざまなアート活動はYouTubeで観ることができます。
Photograph & Text by Shinichi Ishikawa (NUMERO DEUX)