NUMERO DEUX SPECIAL 019 "BLISTER!"
Interview with Taikan Suga
2000.09.25(mon) 18:00-19:00
取材協力 博報堂/スローラーナー/シアターキノ
NUMERO DEUX net magazine Copyright.
BLISTER! site
http:www.hakuhodo.co.jp/movies/blister/
マニアを描いた最高のリアル、「ブリスター!」を見逃すな。ブリスターはバイブルだ!
今年、「夕張国際ファンタステック映画祭2000」にて観客投票NO.1、ファンタランド大賞を受賞した新感覚のジャパン・ムーピー「ブリスター!」。ストーリーは、主人公が「ヘルバンカー」という激レアなフィギュア探しをめぐって、いわゆるマニアたちの日常がポップにそしてリアルに描かれている。決して、偏見にみちた「浅い」作り方はしていない。マニアに対する優しい視点を感じて欲しい。そこにはきっと誰もが共有できる何かがある。一般公開作品としては本作はデビューとなる須賀大観監督にインタビューしてみた。
INTERVIEW WITH Taikan Suga
「ブリスター!」監督:須賀大観インタビュー
by Shinichi Ishikawa(NUMERO DEUX)
● ブリスターを撮り終えた感想は?
まず、「映画」づくりというのを考えてみると、僕は「ブリスター!」の前に一般劇場では公開されなかった作品を一本撮っているんです。その経験で感じたのは、映画というのは、優れた想像力や発想だけではダメだなぁ、ということ。優れた監督というのは、才能もあるし、それに加えて仕切りもうまいのですね。問題が起こるのを予想して対処できる。前の作品では、監督としての自分を、どこまで出していいのか、ダメなのかという部分がわからなかった。
その当時、ウォン・カーウァイとか流行っていて、映像のニュアンスとか、空気感とか揺れ具合とかに重きを置く作品にしたかったのです。ところが、そういう質感というのは曖昧なものだし、それをカメラマンに伝えようとすると、頭にコードを接続して伝えられる訳ではないので(笑)、うまくいかなくて……。
だから、「ブリスター!」を作る時は、強い事実をコンセプトにした映画にしました。空気感とか、光の具合とか、セリフの声のカスレ具合とか、にこだわるのではなく、強い事実。例えば、これは半分シナリオ・ライターに怒りながら言ったのですけど、台本に、雰囲気のいいセリフとか書いてあると、そういうのは凄くリスクを背負うからやめてくれ、と。そのかわり、面白い事実を書いてくれといいました。たとえば、「ちょっとしたオフビート感で、人物はコーヒーを飲みながらボソッとセリフをいう」とか、そんなのは成功しないのですよ。必要なのは、もっと面白い事実。それは、「ブリスター!」にある、「スターウォーズに出れば、フィギュアになれるんだよ」といったセリフとかです。それは、子供がいっても、お年寄りがいっても、どんな役者がいってもおもしろいですから。現場で、光の具合とか、役者さんの体調とかに左右されないセリフをかいてくれ!、といってました。
● ブリスターの語り口
映画というものにはいろいろな語りかたがあります。例えば、ハリウッド映画は、一直線の物語が多くて、主人公の状況があって、事件が起こって、それが解決にむかっていく、という感じですよね。でも、人がある選択をする時、成長や転機を迎える時って、僕はそんな一直線なものではないな、と思っているのです。「ブリスター!」では、そういう考えかたを反映させました。「ブリスター!」でも、主人公がフィギュアによって何かを教えられていくのですが、それはシナリオとしてシンプルなストーリーにはなっていない。
だから、現場のスタッフの方には、フィギュア好きというモノに執着する人間を描くのはヒューマニズムのカケラのないものだ、といわれたり、あるいは、もっと構造的な事で、フィギュア探しに突進していく映画なら、知人と映画作ったり、友達が女の子にフラれる話が必要なの? ともいわれました。
でも、人生というのはいろんなことがあって、それらが積み重なって、一つの選択をするものだと思う。だから、いろんなエピソードをいれて、人生はいろいろあるけど、それらを通してどういう選択をするのか?、ということを描きたかったのです。 自分が、映画監督になったのも、決して、単に映画が好きということだけではなくて、空がキレイと思ったこととか、兄弟ゲンカしたこととか、100億個くらいの要素が積み重なって、映画監督を選択したと思っています。
● マニアの中に確認できたリアリティ
「ブリスター」をつくるにあたっては、「マニア」と呼ばれる人を理解するために、細かいリサーチをしました。友人のマニアの人の話を聞いたり、フィギュア店の人と仲良くなって、いろいろな声を聞きました。ある知り合った人は、いわゆるギャルゲーというのか、ヴィデオ・ゲーム上の恋人とデートするゲームをやっていて、その進み具合を毎日にように電話してきて。それで、「なぜ、そんなに(ヴィデオ・ゲーム上の)彼女が好きなの?」と聞いてみたら、「現実の恋愛も、ゲーム上の恋愛も、結局は同じ脳内活動なんだから同じなんです」といわれて、「なるほどー」と思ったりしました。
自分としては、できるだけマニアの人達の生の声を聞いてから映画づくりにとりかかったつもりです。数年前、フィギュアというのはちよっと流行ってて、ドラマとかで、そのコレクターという設定のキャラクターが出ても、アニメ系、アメリカン・コミック系もSF系も、ぜんぶ一緒、という感じで描かれていて、それで必ず、気持ち悪くて、変態という、凄くステレオ・タイプに描かれていて。そういう感じだったら、僕はつくる意味はないなと思ってました。
フィギュアを好きというのは、あるいは何かが好きということには、必ず理由があるはずなのです。そして、それを深くとらえていけば、必ず万人が理解できるものになると思ったのです。だから、「ブリスター!」もなんだか奇妙キテレツな人たちの青春群像というふうではなく、「僕らはなぜ好きなのか?」というのを掘り下げて分解していけば、かならずみんなが共感できる部分もあると思うし、そういう生き様からなにか学べることや、知ってもらえることがあるんじゃないか。加えて、何かを好きになることというのは素晴らしいことなんだ、というのをこの映画で伝えたかったのかもしれない。
この映画では、フィギュアという、とてもちっぽけなものが、最後には、とても重要な役割を果たします。それは、人が何かを好きになったとき、それがとてもちっぽけなものでも、それを本当に好きだということを貫き通せば、何か大きなことにつながるかもしれない。あなたの好きなものを大切にしてほしいというメッセージもあるのです。
●学生時代は典型的な映画青年だったそうですが、なぜ映画業界に就職しなかったのですか?
そのまま映画業界にいっても、監督になるのにはかえって遠回りになるかなぁ、という打算的なものありましたが、最大の理由は、普通の世の中を歩いて感じたことが映画になるのだから、映画マニアになってはいけないな、と思ったのです。もちろんマニアの部分も残しつつ、それでも世の中を観て歩きたいなというのがあって、「ブリスター」も渋谷をグルグル歩きまわったり、友達と遊んだ経験が生かされていると思うし、映画つくるのに、映画ばっかりやっていてはダメだな、と思って。広告会社に就職した理由も、こういう業界ならいろんな産業形態もみれるし、流行やカルチャー見れるので一番広いかなと思ったことですね。
●最後に今後の予定など
今後、映画をつくるために、もっといろいろなことを経験していかないとな、と思ってます。「ブリスター」をつくっている時は、それが当時の僕が感じていたリアリティだったんです。次作を作るために、次のリアリティを探さなくてはならない。それを探さないと、観客に見せる映画をつくる資格がない、と思ってます。