BOOK REVIEW
「高い城の男」/フィリップ K.ディック
ディックの代表作のひとつ。1962年の作品。舞台は日本、ドイツが勝利した第二次世界大戦後の世界。ドイツは宇宙ロケットを開発し火星への進出も計画。
仮想戦記SFのような設定だが、本作には「戦記」はまったく出てこない。登場人物達は、白人の古美術商や、日本の通商高官、アクセサリーの職人、カップルなど、戦争にもアクションにも遠い人物達の日常が描かれる。あまりにも淡々としていて、読んでるいるうちにSFというのを忘れてしまうくらい。
文章も平易で、変に力が入っていないのが逆にリアル。淡々とした話の中に巧みに「事実」と「虚構」(別の現実?)というテーマが、さまざまなシーンで形や状況を変えて読者の目の前に提示されていく。たしかにそうだ。ひとつの事実には予想されたいくつかの結果があったに違いない。別の選択肢の結果があったかもしれないのだ。読みながらいろいろ考えてしまう。読み終えた後も考える。しばらくたつと、また最初から読みたくなる。そんな作品。