「DIARY OF THE DEAD」(封切作品)
先日、会食をしていて、ソンビ(リビング・デッド)ものの映画話になった。「ここ、最近の映画のソンビって走るよねー」という話になった。リメイクの「ドーン・オブ・ザ・デッド」とかね。
でも、元祖の監督、ショージ・A・ロメロのソンビは、続編を重ねても走らない。ゆっくり歩く。それはなぜだろう。その場では、うまく心には浮かばなかった。考えるのを中断した。デザートも来たし。
家に帰ってみて考える。ロメロって、自分のリビング・デッドのシリーズってここまでヒットすると考えなかったかな、と思う
ロメロは良くも悪くも今でも「元祖ソンビ映画の監督」である。他にも監督作品はあるが成功したとは言い難い。個人的には初期の作品で「マーティン」という吸血鬼の少年の作品が凄く好きなんですけどね。機会があったら観ていただきたい。「吸血鬼」ものとしてはかなり出来がいいと思う。前にも書いたね。
話は戻りますが、ロメロにとって「ゾンビ」というのは、ひとつのメタファーというか抽象的な存在で、それは人間の内面を表現するための、特殊な状況を作りだす、ひとつの小道具だと思います。だから、空気のような存在なので、あんまり激しく動かれても困る。といっても、まんま空気でも困るので、時々、アクションを盛り上げる時もある、といった感じです。ロメロの作品には「結局、一番恐ろしいの人間」という社会的なテーマがあったりします。
近ごろの、リメイク作「ドーン・オブ・ザ・デッド」は、ロメロのソンビ作品の「ソンビとの戦い」だけをピックアップして作品化したもので、それはそれで十分おもしろいのだけど、社会的なテーマを捨てた時「ゾンビ」が走ることを必要としたのだと思う。アクションだけが見せ場になるから。
前置きが長くなりました。そんな、元祖ゾンビ監督のロメロ最新作「ダイアリー・オフ・ザ・デッド」を観た。ここ数年ヒットしている「走るソンビ」映画に対して、ロメロはどう回答するのか?楽しみにしながら、上映時間を待った。
やはり本作は、ゾンビは走らなかった。さすが、ロメロである。低予算で、短期間で作られた作品であって、前作「ランド・オブ・ザ・デッド」よりはるかにスケールの小さい作品なんだけど、なかなか味わい深い作品になっている。
話は、ゾンビ発生の初期が舞台。映像学科の学生がホラー映画を撮っていると、そこでソンビの遭遇し、その様子を記録にすることを決意する。仲間が殺されようが、つねにカメラを回し続け、ネットに映像をアップロードして、世界に真実を伝えることに使命感を持つ。
今回は、メディアのあり方というのがテーマになってるようで、お約束の「人間の恐ろしさ」もあり。ロードムービー風に実家に向かう学生たちの道中のドラマがメインであり、アル中気味だけどアーチェリーを武器に戦う大学教授とか、口が利けないけど頼もしい農家のオヤジなど、ドラマ部分に味わいもありユーモアもある。
ソンビとの正面戦争のような激しい戦いを期待するとがっかりだと思うけど、ソンビとの戦いシーンは最新CG技術か使われ、少ないながら見応えはある。それにしても、本作の見どころは「死者が蘇った」いう状況での様々なドラマであることはたしかである。アクションに頼ることなくドラマの「味わい」という部分にこだわったのは、正解だあり、風化しない作品になると思う。