結晶世界(J・G・バラード)
バラードの代表作。長編である。といっても240ページほどなので、読みやすい。話もそれほど複雑なものでもない。しかし、なんともいえない読感はある。スッキリはしないけど印象深い。
話は、主人公は昔関係のあった人妻をたずねて、ある地域を訪れる。
しかし、そこは軍隊、ジャーナリスト等が来ていて奇妙な閉鎖状態にあった。その原因は、その地域が「結晶化」され、それがどんどん広がっているのだ。
主人公はそれでも結晶化された世界に留まる不倫関係にあった「彼女」を探しにいく。
主人公は40歳で医学博士。不倫関係であった彼女を探しに行くというのが、なんともネットリとした人間関係を感じさせる。彼女は、主人公の友人でもある、夫と一緒にいるのに。迷惑じゃない?そんなに人妻を愛しているかと思えば、現地にいた若いフランス人ジャーナリスト女性と一晩を共にする。翌日にはすっかり自分の女感覚。それでも人妻探しは続行です。
苦労して、人妻のいる「結晶世界」の森に入ってみれば、そこには別のドラマが。ひとりの病身の女性をめぐって、建築家と鉱山主という、これまたいい歳の大人2人が殺し合い。青春でも、若さゆえと言い訳できない中年の恋愛模様がフルに展開されていながら、結晶化されていく世界の描写はとても美しく、味わい深い。さすが、バラード。