Film Review
「金閣寺」(1976)
日本映画専門チャンネルの番組、「ATGアーカイブ」で観た。
原作、三島由紀夫の「金閣寺」は読んでいません。
主演の篠田三郎といえば、僕の記憶は「ウルトラマンタロウ」の主人公なのですが本作では絶対にウルトラシリーズの主役が無理なキャラクターを演じています。
話は太平洋戦争の終わりころから始まります。主人公は子どもの頃から、父親からこの世でもっとも美しいものとして「金閣寺」を教えられます。空襲の激化から、金閣寺は近日、失われていることを予感します。同時に自分の死も予感する訳です。戦争のため。死にむかう方向に結構ワクワクな主人公。
しかし、間もなく終戦になり金閣寺は相変わらず健在。主人公はしょうがなく大学に行くのですが、どうもヤル気がでません。友達もできません。でも、足が生まれつき曲がっていて、それでモテモテの友人ができて、そのおこぼれで、いろいろラブなチャンスがまわってきますが、それでもヤル気が出ません。いつも顔はしかめっ面。人生いいことないなぁと思います。母親の市原悦子は無駄にプレッシャーかけてきますし。
この作品戦時中のシーンから、主人公は恋心をもった女性が彼氏に殺されて心中という事態になったり、戦地を赴く兵隊に母乳を杯で飲ませるシーンをのぞき観たり、戦後は米兵に無理矢理妊娠した売春婦の腹を蹴るのを強要されて、最初イヤイヤだったのがだんだん本気になってきたり、比喩なのか、単にねじれているのか、わからないシーンがわんさか出現します。
それでも品よくアートな感じでまとまるのは篠田三郎のなんとも潔癖な雰囲気かもしれません。さすがウルトラマンタロウ。あと市原悦子のセックス・シーンが何度も出てくるのもなんとも得しない気持ですが、かといって不快でもないのが、この名女優の存在かもしれません。イコン的なんだよね。アートです。
みんな知ってるネタバレですが、最後は主人公が金閣寺に放火して、とっても素敵な笑顔をみせてくれる篠田三郎が素晴らしい。ホント嬉しそう。画面にむかって、良かったね!と肩を叩きたい気分。僕も思わず前向きな気持ちになってきたぞ。僕も自分が一番美しいと感じているものが燃えるいると嬉しい気分になるのかしら。自分の手によっての破壊というのがいいのかなぁ。
本作は、金閣寺を使って撮影できず、かといってセットも作れず「金閣寺」というタイトルなのに金閣寺がほとんど登場しないのが無駄にアートな雰囲気を盛り上げてくれます。