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映画コラム
「ドライヴ」(封切作品)
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※あらすじ 主人公は表向きはさえない車工場で働きつつ、実は裏では犯罪者を車で逃がすドライブのプロ。孤独な生活の中で、ふとしたことから人妻に恋することになり、それが彼の運命を大きく変えることになる。
▼ これは文系男子の夢映画。
映画がはじまる。冒頭シーンは大事。映画ジャンルに関係なく観客に対する「つかみ」だと思う。極論すれば「つかみ」が良ければ、すべてよし、まではいかなくても、かなりいい。本作のつかみは素晴らしいのが2点。ひとつは画像が美しいこと、もうひとつは主人公の「仕事」や性格についてキチン表現していること。
前者は、夜の街を「逃がしのプロ」である主人公がドライヴする。夜のシーンが美しく、かつスリルがある。壮絶なカーチェイスを予想していたら、それは軽く裏切られる。主人公の冷静な目は、やみくもにアクセルは踏まない。時にはそっと、ヘッドライトを消して大きなトラックの物陰に駐車しパトカーをやり過ごす。警察のヘリが来れば、上からの死角の多いところに逃げ込み姿をくらます。
仕事を終えると暗いアパートに戻る…生活はあくまで地味な感じ。カッコいい!カッコいいよ主人公。犯罪者だけど、美学があり、暴力的ではなくて、ストイックな生活。そして孤独。これら描写は僕のような文系男子映画ファンの心をしっかりつかむ。惚れるよなぁ、こういう主人公。みんな好きでしょう。
そこから、近所の人妻に惹かれるシーンも、実にテンポよく進んでいく。このあたりも自然。本作の監督は映画の定石を凄く理解していて、その模範解答をベースに映像作っているように思える。そのため展開が実にわかりやすい。スッと頭に入る。キャラクター設定もそうだ。裏の顔を持つクールで孤独な主人公。ヒロインは、親しみやすい可愛らしい感じ。そして、主人公に敵対する悪人はあくまで徹底的な悪人。実のわかりやすい構図。
本作の難点をあえていうなら、手堅い感じで構成される結果、それなりの予算で作った作品だとは思うのだけど、全体的に趣味のいい「小作品」で終わった印象がある。サウンドトラックも意図的だとは思うのだけど、80年代的なシンセのような音を使っていて、その年代に量産されていたようなアクション作品を連想させる。
映画館というよりテレビで休日の昼下がりの半端な時間、または深夜にひっそりと解説もなく流れていた映画の雰囲気。それは愛すべき味わいはあるが、ダイナミックなスケール感には欠ける。そこを人によってはつまらなく感じかもしれないし、ラストも予想の範囲流れである。あと、バイオレンスの激しさも苦手の人もいるかも。本作はアート系の香りのする犯罪者ドラマという感じかなぁ。
後半がものすごくバイオレンス風味で逆にリアリティに欠けるのも本作の良さだと思う。だって、あんまりバイオレスが現実的だと、逆に感情移入しづらい。本作が文系男子にひとつの夢を表現したファンタジー作品だと考えることもできるから。だから、本作の悪人は徹底的に悪人。主人公に対する完璧な悪人ではないといけないだ。
孤独でクールな主人公が、美人というより可愛らしい女性に恋をして、その結果バイオレンスに溺れていく。「ドライヴ」は僕のような文系男子の妄想にピッタリなのである。それをふまえつつ、美しい画像と、主人公の美学を味わって欲しい。