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「穴」
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帰宅の途中▼自宅まであと10分▼びっくりした▼道の真ん中に穴が空いていたかあ▼大きい▼車も入りそうだ▼僕は穴を覗き込んだ▼穴はどこまでも暗闇であった▼落ちてた空き缶を放り込んでみた▼空き缶は暗闇にとけ込んで、消えていった▼そばにあった放置自転車もほうり投げてみた▼両方とも穴の中に、音楽のように僕の視線からフェードアウトしていった▼音楽のようにと表現したけど、音はなかった▼世の中にはたくさんの穴がある▼いろいろな場所に、地面に、空に、身体の中に▼それらは暗闇であり、音がない▼車のクラクションが聞こえた、青い空が見えた▼穴はなかった▼ゆらぎ、夢想、妄想▼僕は帰路を急いだ。
石川伸一(NUMERO DEUX)
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