本作を観る人は犯人グループの仲間気分。
ホプキンスは意外と薄め。
アンソニー・ホプキンスという俳優は、どんな作品でも良くも悪くも同じ感じなんで、キャラクターの幅としては狭いほうかなと思う。そのかわり、役にハマればすごい存在感を出せる。「羊たちの沈黙」のレクター教授なんで本当に当たり役だったと思う。ひさびさに、その顔を観た本作。
話は実話ベースで、世界的ビール会社ハイネケンの社長(ホプキンス)を誘拐する、素人の誘拐者集団を描いている。誘拐モノというと、犯人、警察、人質の家族、という3つのドラマが同時並行するのが普通であり定石かと思う。
ところが、本作では犯人と人質のドラマだけで進んでいく。では、その思い切った絞り方によって、人質対犯人で濃厚なドラマがあるかと思うと、それも想像以上に薄い。犯人たちは冷酷なテロリストではない。ただ、金に困った集団。運が悪くてヤケ気味。ただ、もとは生真面目なためか、生まれて始めての誘拐もうまくいく。もちろん、ハイネケンを殺すつもりもない。だからといって、犯罪プロ集団でもないから、じわじわと警察の包囲網も迫っていったのだろう。でも、本作ではそういったところが描かれないのでわからない。
本作では、観る側はまるで犯人グループ。なんだかわからないうちに事件は終わる。実際の誘拐でも、誘拐犯側は自分と人質意外の実際な動きなんてまったくわからない訳だから、本作は異様なリアルさを持っているのかもしれない。普通の誘拐サスペンスや、ホプキンスのキャラクターを期待すると肩透かし。でも、アート系映画のひとつとして考えれば、珍しい視点ということで楽しめるかもしれない。50点。
▼ 石川 伸一(NUMERO DEUX)