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「猫とフライパン」
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その猫Aは持っていた▼ちいさなフライパンを▼猫は「穴」が欲しかった▼「穴」はとっても素敵だとコーヒー自動販売機の取出口に住むケチな猫Rから聞いたのだ▼猫Aにとって、フライパンは無意味だった▼なぜなら、猫Aは炒め物をしないからだ。▼猫Aはその小さなフライパンを手鏡のように眺めたり▼フライパンの上に座ってみたりしていた▼猫Aの欲しいものは「穴」だった▼ケチな猫Rに会いに行った▼そして、話しかけた「このフライパンで『穴』を教えてくれませんか?」▼「いいよ」。そう言って猫Rはフライパンの上にぴょんと座り込んだ▼『これはもらったよ」と猫R▼猫A「それで『穴』のありかを教えてくださいよ」▼「はは」と猫Rは笑った▼そして続けた▼「もう、とっくに『穴』の中にいるって」▼「そうでなきゃ、猫がフライパンなん持ってないだろう?」
石川伸一(NUMERO DEUX)
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