洋画★シネフィル・イマジカ
「アンダー・サスピション」(2000)
モーガン・フリーマンが刑事。ジーン・ハックマンが地元の名士で、少女レイプ殺人犯の容疑者。
全編、ほぼこの2人の取り調べの会話進んでいく。普通なら舞台は殺風景な机とデスクライトの取調室が定番であるが、二人が旧知の中というのもあって、舞台はフリーマンの警察内オフィス。ソファのある広めの空間で、2人が立ったり座ったりの、いろいろな動きがあるのがおもしろい。この舞台セレクトは画的に退屈にさせない制作意図もあると思う。
フリーマンの鋭い質問の連続に、最初っからやられっぱしのハックマンが興味をそそる。「刑事コロンボ」のように余裕な態度の犯人が最後の最後でボロを出すのではなく、本編の容疑者は最初っからみえみえの嘘の証言をする。それはすべて嘘だとフリーマンに調査済みの状況があるので、捜査の妨害になる訳でもなく、どんどんハックマンは不利になっていくのみ。
おまけに、自分の妻と不仲な私生活や性的志向まで暴露されるのではたまらない。ハックマンの美しい若妻モニカ・ベルッチを警察に呼ばれ、マジックミラーから取り調べの様子を見ている。
主なキャストは以上の3人に加えて、血気盛んな若い刑事の4人の登場人物で進んでいく。ハックマンの不安定感は先に書いたとおりだが、他の3人も不安定・不穏な雰囲気を出しており、観る側も誰を信じていいかわからない。普通の警察サスペンスにある正義の立ち位置が見えないのだ。そのため不穏な気分になってくる。追いつめる者、追いつめられる者、善と悪、真実と嘘といった単純な2極の構造はここにはない。
犯罪自体が、少女レイプ殺人という異様さもあり、外はカーニバルで盛り上がる最中の警察オフィス内のドラマというコントラストも効いている。ラストは賛否両論あるかもしれない。しかし、現実の世の中はすべて善・悪の2つのみで構成されている訳ではない。犯罪者ではない人間がすべてあらゆる面で善とは限らない。そんなグレーの世界を描いた本作は警察サスペンスにひと味加えた、余韻あるドラマになっている。