NUMERO DEUX NEWS 16050 札幌のアートなニュース。
鮭の記憶、文化の記録
思い出す効果。
実家の食事の話。まず、前提として僕は北海道生まれ、育ちである。いわゆる「道産子」。母の作る食事の材料で魚というジャンルで絞るのなら、一番思い浮かぶのは「鮭」である。とにかく鮭。料理例としては、シンプルに焼き魚、お刺身、フライにしてタルタルソースをたっぷり、そして石狩汁(鮭をメイン具材にした汁物)であった。そして、鮭という魚について、学校での何の授業か雑談だった忘れてしまったが、鮭が故郷の川に帰って産卵する性質と、川を飛び上がるイメージが頭に残っている。現在、実家を出た自分は鮭を食べる機会は少なくなった。そのためか、この魚について考えることは少ない。
東方悠平は美術作家。1982年生まれ、北海道出身。筑波大学大学院総合造形コース修了。見慣れたイメージをモチーフに、それぞれの意味や文脈を、ユーモアを交えて組み変えるような作品やプロジェクト、ワークショップ等を数多く手掛けている。2010年に「第13回岡本太郎現代芸術賞展」、2013年に個展「死なないM浦Y一郎」(Art Center Ongoing)、2014年「てんぐバックスカフェ」(灘手AIR2013)など。
本展示では、魚がバスケットゴールを飛び越えている。道ゆく人がこれを見る。多分、道産子ならこの魚が「鮭」だとわかるだろう。なぜか?そばにバスケットゴールがあるから。最初に書いた、鮭の飛び上がるイメージがポップに表現されている。非現実であるがゆえに自分の頭が動き、鮮明に思い出す効果があるのか。僕はもう実家には住んでいない。鮭は今でも、時々食べる。鮭について過去の食卓を思い出す記憶。北海道の家庭にならぶ代表的な食べ物としての記録。本作品はその記念碑として在るのだと思う。そして、ポップなところに時間を超える魅力がある。僕はひさびさに飛び上がるこの魚について考えた。
Text by
アート・メディアライター 石 川 伸 一 (NUMERO DEUX)
500m美術館vol.19 いつかきたみち、こどもみち
『東方 悠平/泳げ鮭玉くん』
会期 : 2016年7月9日(土)~2016年10月12日(水)
会場:札幌大通地下ギャラリー 500m美術館