デビッド・クローネンバーグの新作。ファンなので気分が盛り上がる。映画が始まった瞬間に拍手をしたいぐらい(実際、心の中では拍手しまくり)。僕にとってクローネンバーグというと、デビット・リンチより好き。本作は平凡な家族が、バイオレンスな世界に巻き込まれる話。カントリーミュージックが普通に聴こえてきそうな田舎町を舞台にクローネンバーグの手腕が光る。
「裸のランチ」や「ザ・フライ」など夢の世界のようなセットや、特殊効果を駆使した作品ももちろん良い。でも、そういった世界は他の監督でも可能な感じがする。しかし、本作のように極めて平凡な家族の風景と、底なし沼のような暴力のスパイラル(=ヒストリー)を極めて間接的に観客に見せつけ、同時に主人公と妻の夫婦生活を、現実に隣人の性癖を知ってしまったような「見てはいけないものを、見てしまったなぁ」という嫌な気分にさせるクローネンバーグ演出の手腕。さすがだなぁ、と思った。
暴力も性描写も今の映画の中のシーンに比べれば、大変控えめ。でも、心にはガンガン突き刺さっていくる。部分、部分のシーンではなく、作品全体から滲み出てくるので避けようがない。とってもうまい具合にこれまでのSFやインテリなティストを背後に感じさせつつ、表面的には、シンプルなストーリィを基本にしている。本作は、暴力を否定もしないし、肯定もしない。暴力を単に否定するのではなく、まず「考える」ことが重要なのではないか、というテーマを感じた。
REVIEW
映画「ヒストリー・オブ・バイオレンス」
2006.04.15