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NEWS No.16046「劇団東京乾電池 創立40周年記念本公演 『ただの自転車屋』」

2016.08.10

ただの自転車屋

NUMERO DEUX NEWS 16046 札幌のアートなニュース。

演劇はそこにお金と時間を使う意味は大きい。

僕は「モノ」より「体験」にお金を使いたいな、と思う時がある……演劇はファンではない人には素朴な疑問があると思う。それは「ドラマを観たければ、TVやDVDで足りるのではないか」「映画館に比べても料金が高すぎるし、スケジュールも限られていて行きづらい」ということである。これはもっともだともいえる。たししかに良質のドラマを自宅でも鑑賞することはできる。

ただ、それはよくも悪くも「再生」に過ぎない。僕達の人生は「再生」ではない。演劇の魅力を知らない人にシンプルに説明するなら、それは音楽のライブと同じだという。今、音楽ライヴの魅力は各地で開催される「夏フェス」で説明しやすい。音楽もネットでYouTubeをを利用すれば、たくさんのアーティストのライブ映像を無料で、いつでも自宅楽しむことができる。でも、音楽ファンはわざわざフェスにお金と都合をつけて足を運ぶ。その理由は、「再生」ではなく「表現のリアルタイムの場を体験」すること。「表現者」と「自分」と「他のお客さん」と、共有する楽しみ。これが魅力となる。それは、演劇に行く理由と同じだと思う。

劇団東京乾電池」は、 柄本明、ベンガル、綾田俊樹によって1976年に旗揚げ。即興性や、シュールな味わいのある重要な劇団のひとつ。3人が映画やTV等で活躍するようになっても、劇団は継続。今年40周年を迎えた。その記念公演が全国でおこなわれた。演目は、北村想書き下ろしによる新作「ただの自転車屋」(柄本演出)。舞台は鹿児島の離島の民宿。次回作のため、缶詰めになっている映画監督(綾田)とシナリオライター(ベンガル)の部屋に、エアコン修理のため、修理屋(柄本)がやってきた。ところが、本業は自転車屋なので、なかなか修理は進まない。話し好きの修理屋からドラマは思わぬ方向に進む。

はじまった瞬間から3人の役者には安定感がある。ベテランもベテランだから、当然かもしれない。演技も自然なんだけどわかりやすく伝わる。エアコンの修理から、話がどう展開するのだろう?と思っていると、最終的には過去の夏が明かされ、哀愁もある形で話が収束していく。見事な脚本だと思う。同時に、役者のエキセントリックな演技の味つけは、とにかく楽しく魅力的だ。バカバカしい、と思える動きを話の構成的に意味性をもたせる、というのは凄い技術だと思った。

映画(TVも)と比べてみよう。演劇はステージが全ての世界であり、すべては生(ライブ)。映画のように複数のカメラの構図も、編集も、ロケーションも、撮り直しもない。そんな緊張感のある場で役者は全力でお客さんを楽しませるための演技する。そこが演劇のおもしろさであり、役者のキャリアの積み上げをリアルタイムで経験できるともいえる。そう考えると、良質の演劇は「体験の場」として素晴らしいものだと思う。演劇『ただの自転車屋』は見るのは「再生」ではなく、自分の人生の中で、役者と自分がクロスすること。僕は人生の不思議と、ユーモアの大事さを「体験」することができた。

Text by
アート・メディアライター 石 川 伸 一 (NUMERO DEUX)

「劇団東京乾電池 創立40周年記念本公演 『ただの自転車屋』」
出演:柄本明、ベンガル、綾田俊樹、山地健仁
脚本 :北村想 演出: 柄本明

 


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