実話をもとにした作品。話はインド貧困家庭の主人公。5歳の時、ある予想外のアクシデントから家族とひき離されてしまう。危険なホームレス状態を乗り越え、オーストラリアの裕福な夫婦の養子となる。なに不自由のない生活を手に入れた主人公だが、大学生になった時。生き別れの家族を探す決意をする…。
実話ベース。そのため話に極端な転結はない。良い話をとして普通の流れだ。構成は主人公がホームレスな5歳の頃と、養子となり大学生になった2部に別れる。印象としては、ホームレス状態の緊張感と、インドの光景を美しく捉えている点で、5歳の頃のシーンが圧倒的に印象に残る。極論すれば、僕としては大学生からラストまでは、単なる答え合わせの場面だと思うのだ。どうもあまり惹かれるところがない。
そこまで違和感を感じるのは、子役と成人役のギャップが大きいところにある。ルックスの点で、まず似ているとは感じられなかった。加えて、5歳の頃の役はやんちゃながら頭が良く、ハングリー精神もあり、世の中の闇も理解している雰囲気。ところが、大学生になった主人公は、育ちの良い、親しみやすい社交的なキャラクターに加えて、ひ弱な印象もある。弱く陰がない。とても5歳で絶体絶命とも思える危機を乗り越えて、少数派といえる恵まれた家庭への養子になれた人物につながらない。
僕は、主人公の大学生時代役のデーヴ・パテールは良い俳優だと思う。養親や恋人、義理の兄弟の関係性について演技もうまい。彼自身も魅力的なキャラクターで映画の画面映えもする。シリアスな映画の雰囲気もグッと良くしている。ただ、どうしても5歳の頃の主人公とつながらない。そのため、5歳と大学生の主人公は別の人物であり、大学生の彼は他人の家族を探す行動をしているように感じられる。
僕は、もっと5歳の頃の主人公とルックスも性格も近づけたキャラクターのほうが、主人公との一致という点で違和感は少なかったと思う。ただ、そうなった場合、ラストの雰囲気は暗めとなり、カルシタスは弱くなると思う。そういう意味では、本作のキャスティングは正解なのだろう。でも、2人の主人公は似ていないと思うのだ。
Text by アート・メディアライター 石 川 伸 一 (NUMERO DEUX)