夢、眠り
そしてドラマが収束する美しさ。
夢は現実なのか、現実が夢になるのか…ともにあるのは「眠り」。
弟と生きる、
雨に濡れないように
食べるのに困らないように
それだけでいい
壊れた冷蔵庫
中で
何かが変わっていく
わからないけど
「眠る」
そばに人がいる
安心できる存在
彼女は人生に「色」があることを知った。
弟の成長にも目を見張った。
これから違う色も
北海道在住、女性作家の書き下ろしの3作目。以前、ご恵贈いただいた作家さんの最新作を読む機会があった。僕は普段は海外のとても内向的な小説を読むのが好きなんで、ちょっと違う作品を楽しむことになる。
だから、本作をまず、全体的になんと説明すればいいのかわからない…だけど試みてみる。若い女性のドラマ小説という感じだろうか。恋愛小説とは違う、主軸は恋愛だとは感じなかった…ただ読み終えるとそういった味もある。
何だろう、読み終わって、思い返してみると不思議な小説だ。要約すれば「「彼女」(主人公)の話」ということだろうか。彼女は日々を一所懸命生きて、まわりが変化していく、彼女は当事者でありながら、傍観者のようにも感じる。
前作「YSAKOIソーラン娘 札幌が踊る夏」は札幌を舞台に全国的にも有名なYOSAKOIソーラン祭がテーマだった。文中ではたくさんの札幌、北海道のキーワードが散りばめられた作品になっていた。しかし、本作ではそこはは抑え気味となっている。本作も札幌で藻岩山の下にある睡眠専門の架空の診療所。そこが事務員として働く主人公の勤務先。
事故で両親を失っていて、高校生の弟と古いアパートで2人暮らし。アパートの住人、診療所に関係する人たちでドラマが進む。主人公の生活に余裕がない様子が冒頭から繰り返し語られる.
シリアスであるが、世間に対する過剰な恨み節はなく、弟と一生懸命生きる。庶民的なユーモアすら感じさせる。主人公が質素なキャラクターなのは本作の一番の魅力ではないか。文章は過去作と同様、淡々としていて気取りがない。好感が持てるし、読みやすい。
舞台が藻岩、市電、中島公園のあたりなのは地元の人間には嬉しい。クラシックで雰囲気のいい場所だから。読み進むとあのあたりかな?と思わせる。病院の出番は思ったより少ないが作家の医療事務経験からか興味深く病院の仕組みを読ませてくれる。
脇役はややエキセントリックな印象はあるが、主人公には常識的なので安定感がある。いろいろなドラマが散らばり、そして静かに収束していくのはなかなか美しい。ラストまで読むと感じる。
そして「ああ、この小説は彼女(主人公)の話」だったのだな、あらためて深く感じ、もう一度読みたくなった。
「 眠りの森クリニックへようこそ ~「おやすみ」と「おはよう」のあいだ~」
著作:田丸久深 / 幻冬舎文庫 / 618円+税49円
2019/02/07発売
Text by メディアリサーチャー 石 川 伸 一 (NUMERO DEUX)
〜文化とアートとメディアについて考えて、書くのが好きです。
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