NUMERO DEUX NEWS 16067アートなニュース
紙って、本とは何だろう?〜カレーへの飽くなき興味。
A.いつもの前書き。
本の未来。それは、紙なのか、デジタルなのか。都市中心部も郊外の国道沿いにも大型書店ある。反面、スマートフォンや、デジタルパッドで急速に電子書籍の使いやすいサービスも登場していく。いったいどうなるのだろう? そんな一種の戦争状態の中で、静かなブームが紙のメディア「リトルプレス」(ジーン、ミニコミ誌、インディマガジンとも呼ばれる小規模出版物)である。
この現象は何なのだろう?リトルプレスというのは、ミニコミといった名称で1960年代くらいから現在まで続いている。それが、今あらためて注目を浴びるのは、印刷物の制作がコスト・技術的に容易になったこと。インターネットによって宣伝もやりやすい。そんなデジタルな発展が、電子書籍の登場と同時に、リトルプレスという小規模印刷物の発表にも優しくなったのはおもしろい。そしてデジタル情報に対して「紙」の持つアナログ感が、アート的な意味合いで注目を浴びているか。また、テーマも多様になったのも理由になっていると思う。
最近、本サイトにて、都内を中心にリトルプレスをお店を書いている連載記事を書いている。全7回を予定。現在まで5つのお店を紹介している。ジュンク堂池袋店 / 代官山蔦屋書店 / ユトレヒト/ タコシェ / MOUNT ZINE 。このあたりで、実際に魅力的なリトルプレスの紹介していこうかと思う。そういうことで、前回は札幌のススキノの鴨々川界隈を中心に、文化的なテーマを扱うBocketを紹介した。2回目は、札幌と京都をテーマにした北海道と京都と その界隈を紹介した。今回は、地域というテーマから変えて「レトルトカレー」を紹介するリトルプレスを紹介したいと思う。
B. 『安レトルトカレーの研究』を味わう。
今回紹介するのは『安レトルトカレーの研究』。A5サイズ。40ページで一色印刷の小冊子。著者はパリッコ。この人物はサイトを見てみると、DJ・トラックメイカー/漫画家・イラストレーター/居酒屋ライターと多彩な活動をおこなっている。さて、本誌の内容は、タイトルで予想のとおり、レトルト・カレーの紹介本である。黄色の表紙まわりが可愛らしい。
カレーはすっかりわたしたちのお馴染みの料理。特に自宅で簡単につくれるレトルトカレーは、カップ(インスタント)ラーメンに並ぶ誰もが「あって良かった!」と心から思う食品だろう。本誌面では、レトルトカレー54種類を紹介。見開きで4商品。グラムやカロリー、辛み、甘み、スパイス感…等を★での4段階評価表。それと200文字前後のコメントが添えられている。文章は、筆者の言葉でズバズバ書かれている。商業誌とは違う文の味わいが気持ちいいし、実用的だ。
そして、誌面のカレーのパッケージは著者によるイラスト。これもいい味を出している。ページの合間にはコラム漫画もあってアクセント。リトルプレスというよりミニコミという呼び名がしっくりくる。ページ構成もよく考えられていて、凝ってはいないが好感のもてるデザイン、内容もすっと頭にはいってくる。1色印刷の潔さも僕は好き。
現在は凝った写真等、ビジュアルデザインに凝ったリトルプレスも多い。そういったものも、もちろん僕は好きだ。でも、本誌のようなシンプルに、でもキチンとした構成で作り上げるのも素敵だと思う。そしてテーマも実用的。リトルプレスとはいろいろ自由なクリエイティブがあるのがいい。そんなことをあらためて思い起こす小冊子だった。
日常の朝。仕事に行く時。「今日は忙しい。夜はレトルトカレーにしようか」と思う。仕事帰りにスーパーに行こうか。そんな時とりあえず本誌をバッグに放り込むのがいい。昼休みにでも読んで、ささやかなディナー選びをしてみよう。きっと楽しくページを開けると思う。これは素敵な楽しみだと思うし、リトルプレス特有の「モノ」感に優しさを感じるだろう。生活につながるリトルプレスだ。
アート・メディアライター 石 川 伸 一 (NUMERO DEUX)
『安レトルトカレーの研究(1)』
¥500(税込)A5判・計44ページ
2014年7月6日発行
著者・編集・絵 パリッコ
http://www.lbt-web.com/paricco/
http://www.lbt-web.com/paricco/kenkyu_book_1/
http://paricco.thebase.in/items/629941