デニーロに命令するハサウェイなんて、
まるでアメコミの世界だろう??
興味はあった。でも、観てなかった。僕は主役の2人は好きなのである。では、なぜ観なかったのか。それは、劇中で「社長」のアン・ハサウェイは嫌だったし「定年退職後にインターン」のロバート・デニーロなんて、もっと観たくなかった。ハサウェイといえば、一生懸命な下積みな感じ。そういう役柄がいい。それがいきなり「社長さん」では、もう楽しむ部分がないじゃないか。そうです、僕は「プラダを着た悪魔」を引きずっています。認めます。次にデニーロといえば犯罪者か刑事か、特殊工作員(または、社会不適合者)に決まっている。それ以外に選択肢等ない。銃を持たないデニーロ。逃げない、追わないデニーロ。それはダメ。絶対にこの映画はうまくいってない。
デニーロに命令するハサウェイなんで、まるでアメコミの世界だろう??だから、観ないと思ったけど、観る事にした。この2人に別れをつげるために!さようならタクシードライバー!
ところが、びっくりするほど本作悪くないのである。奇跡のバランスの暖かいお話。すいません、好きです本作。正直、作品として薄い。ただ、薄っぺらにはならず「薄味」に上品に仕上げた感じなのである。サジ加減の絶妙さ。「そんなにうまくいかないよ」という話なんだけど、そこを観る側にファンタジーとしてうまく納得させているのがうまい。
キャラから説明していくと、ハサウェイは社長であるが、最高経営責任者交代に怯え、家庭不安もあり、子供の幼稚園でも孤独…ああ、いいと思う。この不安定感。弱々しさ。でも、仕事はひたすら一生懸命。いいじゃん。実によろしい。デニーロといえば品良く、でも気取らない「おじさん」。職場の若者に囲まれて、あっという間に人気者。そこがなんともスッと納得できるのがこの人のうまさなんでしょうね。ある意味、鼻につく過剰な演技であるのだけど、少しに時間であっという間に観る側をなっとくさせてしまう。そして、その行動は正しい。
2人のキャラクターの実に「気持ちのいい」の部分をクローズアップして、話を進行させている。正直、二人の関係性は芝居じみている、芝居だからしかたがないか。そうだ、これは芝居なのだ。映像もフレッシュで健康的な明るさ満ちている。本作では、唯一不法侵入なアクションシーンがある。その時のデニーロ立ち回りはさすがな感じがした。今観ているのはマイケル・マンの「ヒート」だったかな?と思ったくらい(嘘ですけどね。でもデニーロカッコ良かった)。
ラストのシーンでは、デニーロはもはや、ハサウェイのグル(師匠)なのかもしれない。ありえない話なんだけ、2人の魅力と薄味の品の良いシナリオによって「こんな会社ないよ!」ではなく「素直にいい話だなー」と思える。現実は厳しい。でも、ファンタジーを信じないと、僕達は生きていけない。そして、本作は実に良質の表現をみせてくれる。90点。
▼ 石川 伸一(NUMERO DEUX)