今、観られない大作。
洋画★シネフィル・イマジカ
「トータルリコール」(1990)
この監督、ポール・バーホーベンが凄いと思うのは、ロバート・A・ハイラインとかHGウィルズとか巨匠というべきSF作家の原作をサラリと自分ふうに監督してしまうこと。そのおおざっぱな映像化ぶりに、原作ファンのプレッシャーとかないのだろうかと思ってしまう。でも、少なくても退屈はさせない映画にはなる。
本作も評価が高く、熱心なファンが多いフィリップ・K・ディックの原作。バーホーベンとディックというとずいぶん食い合わせが悪い感じなんだけど,これが結構いい。
デイックの繊細な哲学的ともいえる内面のドラマを、バーホーベンは、本編始まって早々、銃撃戦、肉体アクション、クロテスクな描写など、必要以上に盛り上げてくれて、お化け屋敷的なおもしろさに溢れている。SF的なビジュアルも、おもしろさ最優先で見せてくれるのが楽しい。デイックの原作ならいくらでもアートな雰囲気にできるのに、そこを捨て下世話ともいえるおもしろさにできるのがこの監督の最大・最強のセンスだろう。「ブレードランナー」最初から狙ってないから、ということだろうか。
シャロン・ストーンの安っぽさ、マイケル・アイアンサイドの悪者っぷりも実にわかりやすくて魅力的だ。悪役はいつまでも悪役で、因果応報で残酷に死ぬ。エンターティメントとしてのおもしろさ、わかりやすさは凄いと思う。ちょっとやりすぎ感のある、ところが良いスパイスだになっている。いろいろうるさい今の映画ではできないことではないか。
SFセットは大作らしく、お金がかけられていて安っぽさは感じない。まだ、なんでもCG時代の作品ではないから実物セットの質感はなかなかのものである。ラストシーンも凄く良くて、センスを隠している監督だなぁ、しみじみ思った。