映画コラム「マルドゥック・スクランブル 圧縮」
Film Review
「マルドゥック・スクランブル 圧縮」(封切作品)
スーパーヒーローは、スーパーであるがゆえに普通ではない。普通でないということは少数派である。そして、少数があるがゆえに孤独感に苦しむことになる。そして自分の存在意義について「普通の人々に」に証明できなければ、生きられないのかもしれない。どんなに能力があったとしても…
原作は小説だということ。でも、僕は国内SFの知識はほとんどない。最近は寝る前にJGバラードばっかり読んでいる。そんな不勉強な僕には、どんな話なのかもまったくわからないまま本作を観ることになった。ひとつあった情報は「おもしろいらしい」ということのみ。ビジュアル的な情報も当日、映画館で観たポスターだけ。それも上の画像みたい感じだからよくわからない。
もちろん、ネットで検索すれば公式サイトもあるし、いくらでも情報が出てくるのはわかる。でも、どうせ知らないなら、そのままの状態を大事にしてみた。そのほうがワクワクするし新鮮だし。劇場は須貝ビルの映画館、ディノスシネマズ札幌劇場。平日夕方18:40分。上映時間は1時間程度であり、本作は3部作の予定だということ。国内の上映館もひどく限定されている。つまり、本上映はDVDのプロモ的要素が強いかもしれない。1時間程度というのは平日の仕事帰りに、観るのに丁度いい。こういった作品の上映が、もっとあってもいい気がする。
ファーストシーンは、なかなかミステリアスな感じ。背景美術から街のシーンを観た時から「ブレードランナーみたいだなー」と思う。その印象は作品最後まであった。主人公の誕生(再生)のところはウィリアム・ギブスンの「カウントゼロ」かしら、と思ったり。別にパクリとあの感じではなくて、うまく消化されていると思う。なんというか、サイバーパンクの世界にうまく導かれる。
本作は、主人公の女の子が武器を振り回して、やたら強かったりするのだけどそこはそれほど重要ではない気がする。アクションシーンは後半にハイライト的に集中していて見応えがあるものの、僕には少しだけ冗長に感じられた。それよりも、アクションの希薄なドラマシーンのほうが興味深い。少女が外出するところとかね。
武器やら、ハイテクやらのアイテムがちりばめられているけど、本質的にはお話はサスペンス色が濃く、これからどうなるのか?というのが楽しみである。主要キャラクターがみんな一癖、二癖あって「過去」を持っていて、含みのある感じが話を魅力的にしている。
人間離れした能力があったとしても、自分の存在意義を証明するために必死な登場人物たち。その切実さに、僕は心が打たれる。グロテスクだったり過激なシーンがあるために、「サマーウォーズ」のように万人に勧められる作品ではないが、未来の架空の都市での彼らは、みんなどこか悲しく、同時に魅力的である。