映画コラム「ダークナイト ライジング」 なんとも殺伐感。
「ダークナイト ライジング」(封切作品)
Story:クリストファー・ノーマン監督によるバットマン3作目。前作ジョーカーとの戦いから8年。コッサムシティは平和な街となっていた。そこに新たな敵が現れる。
※注意;以下、具体的な内容に触れます。
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「伝説が 終わる」なんて思わせぶりなコピー&ビジュアルで、どんな新鮮な切り口で今回来るのか僕はワクワクしておりました。しかし、サラリと裏切られました。おおまかな流れは「新たな悪人登場→対決」という基本フォーマットは従前どおり。少し騙された感はあります。
オープニングの今回の悪人紹介的な飛行機の壮絶なシーン、ひとつの見所でありますし、ノーラン監督版「バットマン」の持ち味である殺伐感が相変わらず。悪人の徹底的にドライな悪人ぶりと、部下にも徹底したストイックな悪人ぶりには頭が下がる思い。正直、このあたりから、僕の頭の中は「なんだかなー」という気分でとなる。
バットマンの味方、執事のアルフレッド。ノーマン版はまさかのマイケル・ケインが演じていて、バートン版とは違う強い存在感があって僕は好きです。ウェインとのやりとりはさすが名優という感じ。しっかし、今回が一方的な退職届のような感じでフェードアウト。これはきっとラスト近くに、バットマンを助けに来るのか!とワクワクしていたら、そんなことはなかった…。
これも実にノーマンらしい、殺伐としたリアリズムだと思うのだけど、なんかさ結局、コウモリコスプレのヒーローの話なんだから、もっと娯楽のニーズに答えてよ!思う。アルフレッドは結局、ラストにそれなりに大切な役回りで登場しますが、僕はもっと直接的にバットマンをバックアップする役で出て欲しかった。数少ない身内の味方なんだから。そのあたりのヒーローに対する徹底した孤独の演出は監督の狙いだとは思うのだけど、厳しすぎるよ!ノーマン先生!という感じ。
敵役ベイン。実に殺伐とした悪人。前作ジョーカーにも通じる。でも、ジョーカーで打ち止めで良かったでしょう。殺伐すぎて観るのも嫌になってきます。ラスト近くに出てくる「人間らしい心もあります!」的なエピソード披露も、別の悪役との関係上作った感じ。そういう心があるなら、都市全滅させるような思想に傾くなと思う。まぁ、それは渡辺謙さんのグループの思想もよくわからなかった訳でありまして。ベインの最後ももうちよっとキチッとあったほうが観る側がカルシタスもあったかと思います。あれ、死んだの?という感じ。冷たいよなぁノーラン。
アン・ハサウェイのキャット・ウーマンは好き。理由はアン・ハサウェイが好きだから。それだけ。ゲイリー・オールドマンのゴードン部長刑事が頑張っている感じは良かった。アクション作品では、悪役な印象の俳優さんだけど本作では自分の信念にゆらぎながら行動していくのが感情移入しやすい。裏主人公な感じがしました。それとは逆に今回のモーガン・フリーマンは「飾り」だよなぁ、いや「記号」か?ワンシーンでいいので活躍シーンが欲しかった。ニヤリとさせる場面をね。副部長役のマシュー・モディーンのアッサリな死に際にまた暗い気分になりました。悪役以外にも容赦のないノーラン監督。トホホ。
バットマンが初登場のシーンはね、カッコ良かった。あのバイクはいい感じ。ゾクゾクした。ほかのアクションはね、ストイックにひたすら殴り合っている感じ。バットマン、秘密兵器使おうよ、と思うし、だんだん「この映画、バットマンでなくていいのでは?」と思ってくる訳ですよ。ウィーンと飛ぶバットマンの飛行マシンは好き。ミサイルを避けるシーンは長過ぎだけど、なんか安心して観られる見せ場ではありました。本作では貴重。
バットマン、一旦負けまして穴ぼこの刑務所みたなところで入れられます。そこはなんと、よじ登れれば脱出できるという素敵特典があるのですが、いろいろ苦労します。この場所は悪役の生い立ちにもリンクしていて意味はいろいろとあると思いますが、悪役のあまりの殺伐さにスッと心に入ってこない。主人公の再生もピンとこない感じで、僕には単なる、バットマン再登場の時間調整にしか感じられませんでした。
ラストのアッサリ加減にショック。それなら、バットマン抜きでやれたんじゃない、と思う。国の特殊部隊や軍隊も動いていた訳ですから。
結論。ノーマンが作りあげた現実感の強いシリアス志向のバットマンという表現は、それは素晴らしいのですが、僕には殺伐しすぎてこの3作目でもう限界という感じです。本作のラストは、かなりにモロに続編を感じさせるものだったので、このティストでまたバットマンはツライなぁ。ノーマン監督って、殺伐を狙うというより殺伐しか作れないという感じではないでしょうか。
僕はティム・バートンのバットマン「1」「2」が好きです。主人公のシリアス具合は、僕はバートン版でも、ノーマン版でも変らないと思っています。主人公の孤独もね。でも、バートン版が、そこをファンタジーぽいセットやメカニック、ブラックユーモアも織り交ぜて、娯楽作品としてバランスをとっていると思う。ジョーカーも僕はバートン版のジャック・ニコルソンの方が好き。ヒースのジョーカーも良いと思うけど、バットマンと対決するという部分だとなんか違う感じがする。バットマンって、ベースはコウモリ男のコスプレ合戦なんだから、そこを考えて欲しい。ヒースの悪人ぶりは魅力的だけど、バットマンの基本世界観とはマッチしてないような気がする。
あと、ノーマン版はユーモアの欠けた、ひたするひたすらブラックなだけの内容。いくらうまいブラック・コーヒーもそれだけ飲み続けるのは僕にはシンドイ。時には上質のクリームを入れたり、ケーキが欲しい訳ですよ。ブルーベリータルトとかモンブランンとか。でも、ノーマン監督の作品は、「上質の豆ならばコーヒーだけで十分!」という理屈は通るのだけど、それだけではツライと思います
殺伐でツライ、ツライと散々書きましたが観ている時は退屈はしませんでしたよ本作。とってつけたようフォローですいませんが、ホントです。見せ場は随所にありますから。でも、違和感があるんですよね。これは作風の好みの問題かと思う。続編は観に行くと思う。変るから変ってないか確認したいから。