小説「溶けた彼女」第2話 ”溶けた彼女の香り”
● 小説「溶けた彼女」
第2話 ”溶けた彼女の香り”
目の前で彼女は溶けてしまった。白くなってしまって、アンティークな椅子の布製のシートにしみ込んでいった。シートは緑だ。見ることはできないが、恐らく中身のスプリングの中を濡らしていっているだろう。いやらしい様子で椅子の脚の外側に液体は回り込み床に流れていった、その中でいくつかの汚れを吸い取ったためか、汚れたところどころ黒い点のある液体となった。どこかで、少年が笑ったような声がした。
椅子の下には液体による30センチくらいの水たまりができた。椅子の上には彼女の着ていた服が抜け殻のように残った。落ち着いた茶色のスーツ。白いブラウス。モダンともトラッドの中間くらいのライン。首回りのアクセサリー無し。崩れこむブラウスの下には下着が少し見えた。コトリと音がして、彼女は1分ほど前にはつけていた手首の腕時計が床に落ちた。そこには彼女のパンブスがキレイに並んでいた。
時が動きはじめた。そう、お店の中は僕達だけの世界ではない。この異変に、店の店員が気づいて、僕達の席のほうに近づいてきた。恐らくオーナーではないと思う。雇われ店長というところか。彼が近づくほど僕は視線を外す。何を話せばいいのか。彼はどこまで、この自体を理解しているのか?また、少年の笑い声が聞こえるような気がした。(続く)