小説「溶けた彼女」第1話 ”はじまり”
小説「溶けた彼女」
第1話 ”はじまり”(または、終わりの始まり)
もう、終わったことだ。忘れるほうがいいあの1時間前のことは。
脳の中に残された断片がコラージュされて、グラスに落とされたミルクのしずくのように…というより床に落とされてクラスというほうが適当だろうか?すべては、混乱に収束されていくようで気分がますます悪くなる。
1時間前。真駒内にある喫茶店にて。この地は札幌なんだけど、市内のほかの場所にはない、街として表情がある。駅から20分ほど歩いた中通り。木材で縁取る透明なガラスのドア。7つほどのカウンター席。4人席が2つ。2人席が2つ。シックな木目調の家具。壁面は灰色。
テーブルの上には砂糖のポッド。このポッドの位置がいつも気になっていた。少し大きめの雑誌を読むとき、誌面の左端がぶつかるのだ。そのたびに位置変えなければならない。雑誌との、小さな楽しみが邪魔された気持ちになる。
1時間前、僕は今よりずっと気分良くお茶を飲んでいた、と少なくても僕は記憶している。しかしながら、僕と対峙していた彼女はそれほどでもなかったとように思える。今の冗談だ。実は彼女の態度など僕は1ミリも興味を持っていなかった。関心のあるフリをしていただけなんだ。それでも僕は真剣だった。彼女の髪型から、ブルネットの髪について話をした。そこから、彼女の変化ははじまった。(第2話に続く)