読む芸術
野坂昭如コレクション〈1〉ベトナム姐ちゃん
装丁がカッコ良いですよね。それだけでも魅かれる。野坂昭如といえば、TVによく出ていた頃の印象は、なんか文句いっているオッサンなんだけど、凄くナイーブな感じがして不快な感じはなかった。
僕は基本的に毒舌なキャラクターって、魅かれることはないので、なにか違う魅力を感じていたのかもしれない。
さて、その作品は貧乏で体を売るとか、貧乏学生が女を買うとか、生々しい内容が多い。そこで繰り広げられる会話はなんともリアルで、汗の匂いもしてきそうだ。ユーモアのサービスも嬉しい。
文体としては決して作文的に読みやすいものではないけど、独特のリズムで読ませるのは、まさに小説家として優れている証拠だと思う。凡人には真似のできないところである。
その優れた部分が「俺は頭がいいだろう」という感じで決して作品全面で出ることはない。でも、ひとつの作品を読み終わった後は、なんともいえない印象深い余韻が残り、それを味わいたくてまた読みたくなる。小説も芸術作品だなと感じさせる。