■ メディア・テクノロジーによる奇跡の組み合わせの3人。
「北大祭 ニコニコ ボカロ鼎談」
2010年6月5日(土)14:00-16:20
会 場:北大工学部オープンホール
出演:川上 量生((株)ドワンゴ 代表取締役会長) /伊藤博之 (クリプトン・フューチャー・メディア(株) 代表取締役/野尻 抱介(SF作家)
今月のはじめ北大の学祭が行われた。広大な敷地の道に露天がならび、建物のいろいろな場所でイベントや展示が行われていた。敷地の緑の中で、休みながら露天のフードを楽しんでいる方もたくさん見られた。
みどころはたくさんあるのだけど、全国的に注目を浴びていたのが「ニコニコ
ボカロ鼎談」ではないだろうか。これは、SF作家の野尻抱介、動画投稿サイトである「ニコニコ動画」を運営する(株)ドワンゴ
の川上会長、爆発的にヒットしたボーカル生成ソフト「初音ミク」で知られる、札幌のクリプトン・フューチャー・メディアの伊藤代表の公開トークイベントが開催されたことだろう。その様子を紹介していこう。
▲ 会場は満員であった。年齢層は、やはり学生ふうの年代の方々が大部分をしめる。8割くらいは男性だったかと思う。
会場は中ぐらいの大きさの講堂だろうか。教壇の後ろに巨大なスクリーンが設置されていた。そして、一番左から司会進行の渡辺保史・野尻抱介・川上量生・伊藤博之が座って並んだ。渡辺は、北大で科学技術の専門家と市民との橋渡しをする人材を育成するCO-STEPという講座を担当する客員準教授である。
今回のイベントがいかに実現したのか? そのプロセスがおもしろい。野尻抱介はSF作家であり、上記の「ニコニコ動画」「初音ミク」の熱心なユーザである。野尻がTwitterでつぶやいたことが、今回のイベント実現につながった。そのやりとりはhttp://togetter.com/li/15791で読むことができる。これはTwitterがなければ実現されなかったことだなぁ、としみじみ思う。さらには3人のスケジュールが空いていたことが奇跡ではなかったか。
公演の内容については、ストリーミング放送やTwitterによる中継などで知っている方も多いと思う。「ニコニコ動画」では以下で観るとことができる。
http://www.nicovideo.jp/watch/sm10982896
なので、以下は僕の主観的な感想を書いていこう。
3人の人物イメージを中心紹介していこうかと思う。
▲ 司会進行の渡辺保史は、北大CO-STEP客員准教授のほかnextdesign.workshop主宰しており、札幌オオドオリ大学、サイエンスサポート函館にも関与。情報デザインについての著作もある。
▲ 野尻抱介 は、SF作家であると同時にかなりの「ニコニコ動画」「初音ミク」のユーザーであることから、その視点での発言が多かったような気がする。スタート前の会場のお客さんに「この中でニコ動ユーザーの人いる?」と気軽に声をかけていて会場の笑いも誘っていた。本編では研究的なことにも「ニコニコ動画」も活用は可能であり、情報の質的な問題も、いろいろな人が見ることによって解決できるのではないか、と語っていた。
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川上量生は「ニコニコ動画」という運営サイトを考慮した実務的な発言が印象に残った。ネットメディアの双方向性を重視しているようだった。また、マスメディアを通した作られたキャラクターではなく、キャラ作りをしないメディア(発信者をそのままみせていく)ことが「ニコニコ動画」の魅力だと語っていた。「もっと動画のアップをやりやすくしたいですね」という発言にも、ユーザー主体の本サイトの方向性を感じた。
▲ 伊藤博之は「初音ミク」の成功によるCGM(インターネットなどを活用して消費者が内容を生成していくメディア=生産消費者)の可能性について発言していた。
プロ、アマ問わず、楽しんで音楽を作っていく環境作りについて、興味深い発言をしていた。そして、クリエイターの音楽がカラオケ等なんらかの形でビジネスで使用された場合は、対価は支払われる仕組について取り組んでいるようだった。
■僕も「ニコニコ動画」や「初音ミク」による「CGM」(消費者が同時に、商品のクリエイティブな部分に関与する)という視点はとても興味がある。もちろん、従前からある消費モデルの主流は続いていくと思うが、それに平行して「CGM」がすこしづつクリエイティブの世界に、さまざまなハッピーな可能性をもたらす予感がするのである。
Photograph & Text by Shinichi Ishikawa (NUMERO DEUX)